2014/7/1
6月号で「和食が無形文化遺産に登録された」というお話をご紹介しました。ではなぜ和食が「無形文化遺産」に登録されたのか、農林水産省のホームページなどを参考に、もう少し掘り下げてみたいと思います。
「無形文化遺産」は、伝統工芸技術など形のない文化で、その土地の歴史や生活風習などと密接に関わっているものを登録対象としています。顕著な普遍的価値を有する遺跡や建造物などの有形不動産が登録対象となる「世界遺産」とは異なります。
実は、食に関する無形文化遺産が登録されたのは和食が初めてではありません。それまでに「フランスの美食術」「地中海料理」「メキシコの伝統料理」「ケシケキの伝統」が登録されています。これらはいずれも地域に暮らす人たちの生活慣習、儀式、歴史的伝統などに関わる食文化として登録されました。
今回登録されたのも「和食;日本人の伝統的な食文化」。単に食事のおいしさ、見た目の華やかさだけではなく、「多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重」「栄養バランスに優れた健康的な食生活」「自然の美しさや季節の移ろいの表現」といった、日本人の精神を体現した食に関する社会的慣習、一言で言えば「自然の尊重」です。
それまでの食に関する無形遺産との違いは、「健康への配慮」が盛り込まれたこと。和食は動物性油脂を多用せず、長寿や肥満防止に効果的だとして、世界中でブームになっています。ロサンゼルスのリトル東京でも、この無形文化遺産登録をきっかけに和食の更なる普及を目指していこうという機運が高まっています。実際、ランチ時になると、うどん屋には行列ができますし、寿司屋ではカウンターに一人で座り、寿司をつまみながら、昼間から日本酒のグラスを傾ける欧米人の方が多いことに驚かされます。
かたや、本家本元の日本では、食の欧米化が進んでいると言われています。核家族化の進行もそれに拍車をかけているのでしょう。「和食」の心を代表するとされる「おせち料理」を手作りする家庭も少なくなっています。代々受け継がれてきた家庭の味、すなわち「おふくろの味」文化も薄れ、和食自体も伝統料理化していく過程にあるのかもしれません。しかし、私たちには今も昔も変わらずに守り続けてきたことがあります。それは「食にかかわるすべてに対する感謝の言葉」を述べること、すなわち「いただきます」「ごちそうさま」。
食生活や習慣が多少変わったとしても、この「いただきます」「ごちそうさま」の心は忘れずに、日本的な食文化、和食の心として未来永劫引き継いでいきたいものです。