1969年、神奈川県生まれ。青山学院大学在学中は、日本で普及し始めたばかりのラクロスをプレー。卒業後の92年に大日本印刷に入社し出版印刷事業部で印刷営業に従事。2012年、出版メディア事業部国際本部に異動。翌13年にLA駐在となり現職。
LA駐在は2013年から。それまでは1992年に大日本印刷に入社してからずっと出版印刷の営業をしてきました。さまざまなことをさせてもらいましたが、中でも糧になったのはデザインとグラフィックの雑誌「MdN」の仕事です。その雑誌に関わる中で、インクにラメを入れたり立体に見えるホログラムにしてみたりと一般流通する雑誌ではやっていなかった特殊印刷を表紙で紹介する企画を手伝わせてもらいました。こういう特殊な印刷は工場から最初「できない」と言われることが多いのです。そこを「出版印刷機では無理でもパッケージを作る機械ならどう?」と提案したり、協力会社の人に技術協力をいただいたりしながら実現していきました。新しいことを次々やって面白かったのですが、初めて植毛印刷(短い繊維を植え込む印刷)をした時は工場中が毛だらけになってと大変な思い出もあります(笑)。
でもその「できない」ことをできるようにしていった経験はアメリカでも役に立っています。というのもアメリカでは当社が運営する工場はありませんので、まずは物を作ってくれるベンダーを探す必要があります。また日本では自社工場で生産する印刷物など売る物がありますが、ここでは多くの場合お客さんのニーズに合わせて、売る「物」を提案するところから仕事が始まります。
LAオフィスでは主に建材のフィルムを手掛けており、出版印刷、商業印刷の仕事をしているのは実は僕一人です。2010年頃から前任者が漫画やカードゲームの印刷などを手掛けてきたのですが、僕が赴任した13年あたりで売上が減少。その時にPony Canyonさんから、アニメのコレクターズパッケージ(上写真、Blu-ray、DVD、CDなどがセットになったもの)をアメリカで売りたいという依頼をいただきました。ところがDVDプレス会社を探し製作が進んでいよいよ納品となった時に「パッケージ作業が間に合わないから予定の1週間後にしか発送できない」と連絡があったのです。発送予定日3日前でした。パッケージ作業ができる場所をあちこち探し、最終的に発送予定日の早朝に一度だけ訪れたことがある会社の社長にお願いしたのです。そうしたらベトナム人のその社長が「分かった、やろう」と。何カ月か前に日本に出張して日本人にすごく良くしてもらったからと。そして社長も僕も一緒にラインに入り、深夜3時までかかって間に合わせてくれたのです。
発売予定日通り、15年4月にそのコレクターズパッケージのシリーズ第1弾が無事に発売となりました。それをきっかけにアニメ業界でも知り合いが増え、そこからアニメ関連のパンフレットの印刷や展覧会でのブース施工、看板などの大判印刷や設置申請など「印刷」に関わるさまざまな仕事をさせてもらうようになりました。またその頃からオンラインストリーミングが本格化したこともあって、地上波では流しにくかった日本のアニメを観る人が増え、それと同時に漫画を読む人も増加。業界の盛り上がりに伴い、当社の売上も伸びてきたのです。
うれしいのは、日本の大日本印刷も今年からアニメ制作への出資を含め、コンテンツビジネスにより注力していくことになったこと。これまでに築いてきたネットワークやノウハウを活かし、日本のクールジャパンのコンテンツを北米市場で広めていくお手伝いができればと思っています。
DNP America, LLC◎大日本印刷の北米拠点。ニューヨーク、ロサンゼルス、シリコンバレーにオフィスを構え、ロサンゼルスオフィスでは、アニメ関連などの印刷を手掛けるほか、建材のフィルムを扱う。