2021/3/4
去る1月27日、新型コロナウイルスの影響下にある新政権誕生後の米国経済の展望に関するウェビナーを、みずほフィナンシャルグループの中村さんを講師に迎えて開催した。
[講 師] 中村正嗣さん
みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長。2002年みずほ銀行入行。みずほ総合研究所で米欧マクロ経済・長期金利、為替相場などを担当した後、みずほ銀行産業調査部で産業総合、国内産業政策分析を担当。共著書に『ソブリン・クライシスー欧州発金融危機を読む』(日本経済新聞出版社)。
パンデミックという前例のない状況下での米国経済は、2020年の7-9月期に急回復したものの、依然危機前を3.4%下回る水準であると中村さんは現状を説明した上で、今後の先行きはワクチンの普及にかかっていると語った。
「需要が回復する分野と遅れる分野、回復パスは二極化すると予想されます。今年に入ってワクチンが普及するに従い、経済は正常化に向かっていくのではないかと見ています。しかし、集団免疫を獲得できるまでに1年かかります。本当の意味での経済正常化は2022年の年初という想定です。また、ワクチンに関しては、有効性と安全性の評価において未知な面もあります。次の冬を迎えた時に期待ほどの効果が表れない場合、経済回復のパスも変わってきます。1月現在、米国でのワクチン接種は低調な滑り出しです。今後、どこまで加速できるかが課題となるでしょう」。
次に、米国経済の回復ペースはリーマンショック時よりは早いが、今回の場合、セクターごとの差が著しく大きいことも特徴だと述べた。財消費、IT投資、住宅投資はV字回復で、しかもすでにコロナ危機前の実質GDPを超過している。
中でも特に好調な分野は住宅市場であると触れ、「持ち家の世帯数が昨年から急増しています。これはコロナ危機を受けてリモートワークが推進されたことの表れです。金利が過去最低水準であることも需要を喚起しています。引き続き、住宅市場の好調は続くと予測され、在庫不足が問題となっています。価格急騰が当面のリスクです。また、資材の高騰と人出が集まりにくくなっていることも懸念材料となっています」と語った。
また、製造業は緩やかに回復している。「(現場で)感染の抑制措置を取らないといけません。従業員が感染した場合にはフル操業が難しくなります。しかし、受注自体は好調で、受注残も抱えています」と、製造業の現状が語られた。
反対に回復が遅れそうなのは旅行関連セクターだ。「新型コロナウイルスの状況が収束に向かわないと難しい分野です。インバウンドは昨年落ちたラインからそのまま横ばいの状態が続いています。アウトバウンドの消費も減っています。その関係で、ホテルなどレジャー関連の建設投資の低迷も続いています」。
続いて、バイデン政権誕生による今後の影響については、「議会の過半数を民主党が占めているので、打てる対策もありますが、そのためには民主党の議員全員の一致団結が大前提となります。バイデン大統領のリーダーシップが問われるところです」と、新大統領の手腕が今後の鍵になってくると述べた。
また、「バイデン大統領の公約は増税を含め、民主党内での意見をそのまま盛り込んだものとなっており、それをそのまま通すのはかなり難しいと思われます。時間的な制約を考えると規模感を絞って、優先順位を付ける必要があります。それでうまくいったとしても、景気への影響は来年以降となります」と状況の転換までは時間がかかりそうだと展望した。
さらに、バイデン大統領の経済対策の柱は、「米国製造業優遇」「グリーン/環境投資」「育児・介護・労働者支援」「人種の公平性」であると紹介した上で、「保守的な司法判断により、経済政策におけるバイデン政権の自由度が低下しています。バイデン政権も行政権限などで実現可能な政策に傾斜しやすいと見られますが、例えば、気候変動対策などでは、オバマ政権のように既存法の解釈拡大で規制を進める手法が使いにくくなる可能性もあります。州に対する連邦政府の権限や、行政府の裁量を限定的に解釈する傾向が強まる展開が予想されます。新規立法についても、州に与える影響との関係で政策の範囲が制約される上に、行政府への詳細な指示を明記した立法が必要となり、難易度が高まります」と、バイデン大統領が提示している柱がそのまま実現されるには、最高裁の構成が変わったことから司法の障壁があるということが示された。
外交政策に関しては、「トランプ政権からの大きな転換が見込まれます。(バイデン政権の外交政策の)実態が見えてこないのが正直なところですが、外交の優先順位は高くないようです。今後も様子を見ていく必要があります」と、トランプ政権とは大きく変わる見通しながらも、まだ不透明であると語った。
最後に行われた参加者との質疑応答では、「中国企業の排斥傾向は、新政権でこの先変わるでしょうか」との質問が寄せられた。中村さんは、「大きくは変わらないでしょう。中国に強硬に出たのは議会主導の政策であり、それを戻すのは難しい状況です。バイデンは多国間協調を主張していますが、具体策が見えていません」と新政権発足後も、特に大きな変化がないとの見方を示した。
次に寄せられた「ビットコインをはじめとする仮想通貨の今後はどうでしょうか」との質問には、「(ビットコインは)便利な決済方法ではありますが、知名度が上がって普及してきたからこそ、コンプライアンスや消費者保護が重視されてきている状況かと思います。犯罪への悪用など大丈夫かと注視されており、投資の対象になるのかなど、まだ結論を出すのは難しい段階です」と答えた。
最後の質問、「米国内における景気回復の地域ごとの差について見通しはどうでしょうか」に対しては、「カリフォルニア州は、雇用や小売消費が新型コロナウイルスの影響を大きく受けました。他方、テキサス州やフロリダ州の景気の悪化ペースは比較的緩やかです。それらの状況の差は、後者の州の知事が共和党であり、コロナの感染抑制のための制限措置をあまり課していないことから生まれています。経済という物差しで見れば、政策の違いがそれぞれの州に違いを生んでいます」と答え、セミナーを締めくくった。