2022/3/4
去る2月1日、今年1年の米国の経済状況と金融マーケットをさまざまなデータを基に展望するセミナーをオンラインで開催した。
[講 師] 西岡純子さん
三井住友銀行(NY)チーフ・エコノミスト
京都大学経済学研究科修士課程修了。2000年、日本興業銀行に入行し、エコノミスト業務開始。02年、日本銀行入行。07年、ABNアムロ証券東京支店に勤務。08年、RSB証券東京支店チーフ・エコノミスト・ジャパンを務める。15年、三井住友銀行入行。19年5月より現職。
最初に、今回のセミナー講師を務めた西岡さんは、「アメリカ経済の大きなテーマは、現在のインフレがいつ落ち着くのかということです。一番の関心はオミクロン株の感染拡大の状況です。しかし、昨年11月から急速に感染拡大したオミクロン株ですが、そのペースは急ピッチで落ちています。弱毒性ゆえに感染ペースが早ければ早いほど、収束する時も早いということを証明した形になっています」と前置きした上で、パンデミック中に進んだ在宅勤務からオフィス復帰について、次のように続けた。「リターン・トゥ・オフィスの割合は南の州では順調に伸びていましたが、ホリデーシーズンを機会にまたガクンと落ちました。一方で、人々は『ウィズコロナ』に慣れ、ニューヨークの人々は日常的にマスクをするようになっており、また学校も再開したままです」と語った。
次に、パンデミック前と現状を比較した各国経済の持ち直し方については「コロナ対策の違いで経済状態に差が出ています。日本はその政策ゆえに回復が遅れています。一方、アメリカのコロナ対策は所得移転が多くを占めました。上乗せ給付などで、現金を配布したことで需要を底上げすることを最優先する対策により、成長押し上げにつながりました」と、実質GDP変化率のデータを比較して紹介した。その変化率によると、プラスの成長を見せているのはインド、OECD、米国、サウジアラビア、韓国、G20、中国、トルコ。一方、マイナスはEU、フランス、ブラジル、オーストラリア、ユーロ圏、インドネシア、ドイツ、イタリア、カナダ、日本、英国、南アフリカ、メキシコとなっている。
失業率に関しては、「アメリカは一時、レイオフを行った企業が多かったので、失業率が15%まで上昇しましたが、昨年12月には3.9%にまで下がりました。問題は雇用のミスマッチが深刻で、特に中小企業が条件に見合う人材を採用するのが困難な雇用不足に陥っていることです」と解説した。
供給制約については、「入荷遅延が先進国で特に深刻な状態です。供給制約の解消は2023年いっぱいまでかかりそうな見通し。ただ、最新の情報では入荷遅延が少しだけ回復に向かっているようです」と、しばらくの間、供給不足は継続との見方を示した。
さらに、インフレに触れ、「米国のインフレ率は5%と、先進国の中で最も高くなっています。米国では22年3月まではインフレが続き、その後、前年対比でのインフレ率は少しずつスローダウンしていくでしょう」と予測した。
また、「家計のバランスシートは良好」と語り、「家計負債で、パンデミック以降で増加したのは住宅ローン、オートローン、その他の消費者金融です。不動産価格が上がったために、所有物件を売却し、より大きな物件を購入する人が多かったことで住宅ローンの利用が増えました。ただし、固定金利が主体です。平均的なクレジットスコアも高くなっています」と、家計は07年のサブプライムショック時と比べると総じて安定していると付け加えた。
そして、西岡さんは「今後、労働市場は完全雇用に向け改善が進み、労働参加率がパンデミック前に戻らなくても完全雇用は達成可能です。14年から18年の前回サイクルとは異なり、FRBの資産残高の圧縮が政策正常化プロセスの前半に前倒しされるのであれば、金融引き締めバイアスが早期に高まります。こうして、金融政策正常化の加速の条件は整ったと言えます。楽観的に捉えれば、人材不足が解消し、オミクロン株が落ち着けば、経済は回復していきます。今後、躍動感の大きい経済の動きになることはほぼ必至です」と展望した。
質疑応答でも、「アメリカの経済回復は日本や中国と比べて早いか」との質問に対して、「アメリカの回復は早いと思います。前述のようにコロナ財政の性質によるもので所得移転が功を奏しました。人々はもらったものはすぐ使います。欧州と違って、すぐにお金を配布したことが回復ペースにつながりました。経験的に言うと、経済が落ちるペースが早ければ回復するのも早いのが、アメリカ経済の特徴です」と、今後の見通しは明るいと締めくくった。