2022/8/27
去る7月29日、第241回JBAビジネスセミナーをオンラインで開催した。講師を務めたのはCambridge Technology Partners Inc.の飯田邦彦さん。同社のブライアン・フランケさんのコメントを紹介しながら、経営者が知っておくべき企業のIT改革のポイントを分かりやすくまとめて解説した。
[講 師]
飯田 邦彦さん
2012年ケンブリッジ・ジャパン入社。コンサルタントとして大手製造業の人事システム刷新やグローバルIT展開、老舗アパレル企業のIT構造改革などに従事。21年7月より現職。顧客企業のグローバル展開をプロジェクトマネージャーとして支援。
[講 師]
ブライアン・フランケさん
1996年ケンブリッジ・ジャパン入社。アジア・南米7カ国におけるサポートシステム導入などのプロジェクトマネージャーを担当。2019年ケンブリッジ北米法人立ち上げを担当。アジャイル・プロジェクトマネジメントの資格、「PMI Agile Certified Practitioner」を保有。
飯田さんは最初に、今回のセミナーの目的について「オーナーやリーダーの皆さまはITに関しては担当者に任せているかもしれませんが、ITプロジェクトを成功させるためにビジネスオーナーが最低限押さえておきたい勘所をご紹介します」と語った。
「企業として大きな変革を起こしたいと思うと、IT構造改革を行わずには実現できません。そして、そもそも今回のセミナーのきっかけとなった某社長からの相談についてご紹介しましょう。その社長の会社のITプロジェクトは3回目の稼働延期を迎えており、本人が赴任した時には決まっていたので、実際に何をやっているか社長自身が把握しておらず、さらにいつ終わるか不明だということでした。予算に関しても最初の見積もりの5倍に膨れ上がっていたのです。このようにアメリカではプロジェクトが走り出しても、成功率は30%でしかないと言われています。成功の定義はオンタイム(納期通り)、オンバジェット (予算内)、サティスファクトリー(満足度)で決まりますが、それ以前にプロジェクト自体がキャンセル、または納品されても使用されないものさえあります。なぜこのように成功率が低いのかと言うと、立場や利害の異なる者同士が集まっているために認識がずれてしまうこと、さらにアメリカの日系企業では英語と日本語という使用言語の違い自体が存在します」。
このような説明に続いてフランケさんが「さらに従業員は忙しい通常業務に加えて、プロジェクトの業務にアサインされるために、日常業務を優先させることでプロジェクトが滞る事態にもしばしば陥ります」と付け加えた。
そこで、ITプロジェクトを成功に導くために経営者が押さえるべきポイントについて飯田さんは「最低限押さえていただきたいのは、ITプロジェクトの責任者の決定、ITのお金、ITの人材、ITビジョンの4点です。プロジェクトの責任者はむしろIT部門以外の人がやった方がうまくいくことが多いです。そして責任者は、行き当たりばったりにならずに、長期的視点で見通すことが必要になります。責任者の役割は、やりたいことを明言する、部門間の対立を裁く、財布の紐を握ることです。次に金勘定ですが、実はやることの詳細までが決まらないうちにいくらだと決めるのは難しいです。不確実なベンチマーキングの段階で2億や3億など具体的な数字を提案するのは不誠実だと言わざるを得ません。ですから、大枠の予算を設定して、それを越えないように進めるのが現実的です」と解説した。
さらに、ITプロジェクトを長期的ビジョンで捉えることの重要性を、旅館の増築に例えて説明した。「増築を重ねた旅館は、それぞれの棟を移動するのも非効率的で時間がかかったりします。これは長期的視点に立っていないからです。短期的な視点でITをいじろうとすると同じことが起こります。データを取ってこようと思っても時間がかかり、不安定で、しかも古いシステムなので修正もできない、修正にかかる費用も高いとデメリットが目立ちます。そこで、10年に一度でも基幹システムがどうなっているか、どう変えていくかという長期的視点に立った作り変えと次世代への引き継ぎをコンスタントに行っていく投資が必要です」。
また、プロジェクトを成功させるためには、経営とIT部門、またそれぞれの部門との断絶や対立を長引かせるべきではなく、何よりも「腹を割って率直に話し合う姿勢を優先させてください。ITをツールとして捉えるのではなく、(工業)プラントのように複雑な要素を組み合わせた事業の根幹だと捉えて、ぜひ本腰を入れて取り組んでほしいと思います」と飯田さんは強調して、セミナーを締めくくった。