2024/5/6
去る3月8日(金)、みずほ銀行米州調査チーム主任エコノミストの大澤さんを講師に迎え、特別経済セミナー「大統領選挙イヤーで注目が集まる米国経済の現状と展望」をオンラインで開催した。
[講師プロフィール]
大澤秀暁さん
みずほ銀行産業調査部米州調査チーム主任エコノミスト 2014年みずほ銀行入行。16年より財務省に出向し、マクロ経済調査業務に従事。18年より産業調査部総括チームにてグローバルトレンドの調査・分析を担当。21年よりニューヨーク駐在員として、米国経済の調査・分析を担当。
今回の特別経済セミナーでは、大澤さんが秋の大統領選挙を踏まえ、米国経済の現状と展望について解説した。その前提として、大澤さんは2024年の世界観について「戦後国際秩序が崩壊し、政治、地政学面で言えば、台湾情勢と中東情勢については引き続き考えていかなければいけない状況です。今後、国際的な分断も進んでいくと予想される中で、世界貿易の分断、金融市場と金融システムの混乱、慢性インフレと世界同時不況といった問題が相互に影響し合い、リスクが多様化、複合化する世界になっています」と語った。
米国経済の現状については、「歴史的ペースでの利上げも景気後退に至らず、23年初頭は経済の鈍化を予測していたものの、その後大きく予測を上方修正しました。足下の経済も今のところ堅調さを維持しています。個人消費が牽引して堅調な経済成長を維持している形です。この堅調さがなぜ維持されているのかというと、家計債務の7割を占める住宅ローンの実に9割超が固定ローンで借りられていることなどが挙げられます。つまり、利上げ局面でも、すでに利子が固定化されているので利払い負担は高まりづらいのです」と説明した。
そして、住宅価格や株式市場も好調なため、その資産効果が消費を下支えしていると付け加えた。「住宅ローン金利が激しく上がったことで、現在、家を持っている人たちは高い金利で住宅を買い直す気にならず、売り物件の在庫不足で住宅価格は高止まりしています。株価も巨大テック企業群M7(NVIDIA、Tesla、Amazon.com、Alphabet、Microsoft、Apple、Meta)の株価は力強く上昇を続けています」。さらに、大澤さんは米政権による寛大なコロナ対策として支給された給付金が、家計のバランスシートに過剰貯蓄として蓄積され、消費の下支え要因になっていると説明した。
また、移民・プライム層の労働供給増加により、労働市場のひっ迫が緩和されたこと、製造業の供給能力が正常化し、「モノ不足」が解消に向かっていること、利上げの影響により企業の利払い額が増加したものの、企業の借り入れ環境はすでに緩和方向に向かっていることなどの米経済のプラスの側面が紹介された。
金融政策の見通しについては、「米国のインフレ率はピークよりも大幅に鈍化したものの、まだコアCPIは前年比+3.9%であり、2%に戻るまではもう少し時間がかかりそうです。1月のCPIは市場予想を上回り非常に強い結果で、インフレの根強さを示唆しています。インフレ率2%に向けた最後の課題は人件費です。株価などが堅調に推移する中で、コロナ禍を契機に多くの労働者が引退したことで発生した人手不足ですが、ここにきて高齢層の引退が再度顕著になっています。労働需給のひっ迫が緩和し、賃金の伸びが鈍化していくかどうかがインフレ率の低下を左右します」と、インフレが収まることは簡単ではないと同時に、人件費問題がインフレに大きく関わってくると述べた。続いて、大澤さんはドル円相場に触れ、日米金利差縮小を背景に円高が進行することで、24年末には1ドル130円台半ばを予想すると語った。
最後に大統領選については、支持率を見ると大統領、上下院でトリプルレッドもあり得る展開であると語った大澤さん。もしトランプ大統領が誕生すれば、米国第一主義により、「経済・財政面では移民排斥、関税引き上げ、減税政策の継続が、また外交面では単独主義、同盟軽視が、環境面ではパリ協定の再離脱、EV促進策の廃止、化石燃料の振興といった政策が取られると考えられます。特に環境政策では米国が世界的な潮流に乗り遅れるリスクが高まり、脱炭素化の遅れといった世界の潮流自体に影響が及ぶことが懸念されます。また、日系企業に限らず、エネルギー業界、自動車業界が影響を受けることになります」と予測した。
ただし、トランプの前政権時代に見られた特徴として「最初に高い目標を掲げて、それを調整するという傾向が見られました。大統領といえども掲げた政策を全て実現できるわけではないという点を考慮に入れておくべきだと思います」と語り、セミナーを締めくくった。