2023/3/30
去る2月26日(日)、教育文化部会主催で毎年恒例となっているバイリンガルセミナーを、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校のダグラス名誉教授を講師に迎えてオンラインで開催した。
[講 師]
ダグラス 昌子さん
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校アジア・アジアンアメリカン研究学部日本語科名誉教授。専門分野は継承日本語の発達、カリキュラムデザイン、リテラシーの発達など。南カリフォルニア大学卒。教育学博士。
ウェビナー開始時間10時となり、登場したダグラス教授は、「昨日の大嵐と違って晴天で安心しました。今回もウェビナーの講師としてご招待いただき、ありがとうございます。JBAの皆さまには準備の段階からお世話になりました」と挨拶した後、早速、パート1の「幼児期の言語力と就学後の言語力の関係」について解説を始めた。「就学前のお子さんは、家庭でどのような言葉の力を発達させるでしょうか? 答えはオーラル、つまり話し言葉の力と、読み書きの力につながる萌芽的リテラシーの力です。話し言葉は、大人がモデルとなり、大人と対話する中で発達します。二つ目の萌芽的リテラシーは読み書きの力が発達する前の段階の力。これが発達するかしないかで、学校に行った時の読み書きの力が影響を受けることになります」。
そして、ダグラス教授は、親が子どもにどのように接するか、多様な単語を使い、対話をするのか、命令調で一方通行で簡単に話すのかで、子どもの語彙の習得量に差が出ることを紹介した。
次に萌芽期のリテラシーについて説明した。「豊かなリテラシーの環境が家庭にあることが重要です。たとえば、たくさん本がある、大人が本を読むことを楽しむ様子を(子どもが)見る機会がある、大人がメモをしたり、メールを書いたりしているのを(子どもが)見る機会があるといったことです。これらの条件があって萌芽的リテラシーが発達するのです。それによって、書かれているものが話し言葉と同じで意味があるということを子どもは理解できるようになります。そして、萌芽的リテラシーの力がある子どもとない子どもとでは、学校に入って読み書きを学び始めると、差が出てきてしまうのです。この力があると本を読むことにすんなりと入っていくことができます。今、幼児を育てている方は、子どものオーラルの力と萌芽的リテラシーを発達させてください。これらが高いと学校での学びの成功度が高くなります」。
二つ目のトピックとして、ダグラス教授はバイリンガルの能力がどのように発達していくかについて取り上げた。「これまではモノリンガルに関するお話でした。では、アメリカに住み、バイリンガルの生活を送っている子どもたちの二つの言語がどのように発達していくかについて話します。実は二つの言語を身に付けるのに2倍の力がかかるわけではないのです。以前は、二つの言語が脳の別々のところに入っていくと考えられていました。しかし、その後の研究では言語能力は一つの場所で育つことが分かったのです。この説を基にカミンズが二言語基底共有説を唱えました」。この説をもとに、ダグラス教授は二言語の発達について説明した。「家庭で日本語を話している子どもの場合、日本語は元の木の部分です。学校に入ったら英語は、その元の木からつながる接木として伸びていきます」。
そして、元の木を強くし、接木を育てる方法として、就学前も就学後も家庭でのサポートが重要だと強調した。「話し言葉の発達のためには、大人が子どもに話しかけることが重要なのですが、どのように話しかければいいでしょうか。ポイントは対話式です。“Look! I painted. ”と子どもが言うと、それに対して大人は“You painted the whole picture by yourself? ”と答えます。つまり、子どもの発話に応える時にその発話をさらに長くし、こんなふうに話せばいいんだよということを教えているのです」。
次にリテラシー発達のサポートに関しては、読み手と聞き手が一緒に考え、話し合う形の対話型読み聞かせが、最も子どもの話への理解力を高め、同時に理解できる語彙の量を増やすと解説した。「対話型読み聞かせによって、子どもを読むという活動に関与させることが重要です」。また、小学4年生になると、それまでの「読むことを学ぶ」ことから「学ぶために読む」という方向転換の時期を迎える。これに関してダグラス教授は「これはよく知られている4年生の壁、9歳の壁と言われるものです。そして、小学4年生の前にも子どもたちは1年生の段階で第一の壁にぶつかります。これは、就学前は読んでもらうことで楽しんでいたのに、急に自分で読まなければならなくなるからです。子どもに、この第一の壁を自分で乗り越えろ、というのは無理な話で、手助けが必要となります。教科書も、内容理解に困難を感じている子どもの場合、対話型読み聞かせで内容を理解させて、学校に送り出すことが重要です」。
最後にダグラス教授は、バイリンガルとバイリテラシーの力を公に認定する方法について解説した。「なぜ認定を受けることが大切かといいますと、二つの言語を勉強してきたことが認められることはご褒美としても素晴らしいですし、就職・教育機関でこの認定を受け入れるところが増えているのです。認定には、カリフォルニア州のSeal of Biliteracy と、もう一つ別のGlobal Seal of Biliteracyとがあり、前者は公立高校のみ、高校卒業時にトランスクリプトに記載されますが、大学に願書を出してから結果が出るので、願書には間に合いません。また州により認定に必要な言語力の基準が違います。Global Seal of Biliteracyは私立高校も対象で、高校4年生に限らず3年生でもGlobal Seal of Biliteracyが公認する日本語のテストの結果と英語力の証明があれば認定され、大学のアプリケーションに間に合います。また、認定基準は州、国の違いがなく同一です。できれば二つもらって卒業してほしいと思います」。
以上でウェビナーは終了。その後の質疑応答の質問の多さからも、バイリンガルセミナーへのJBA会員の関心の高さが伺える結果となった。