2021/12/1
去る11月10日、DLA Piperから4名の講師を迎え、バイデン政権下における通商政策に日系企業としていかに取り組むかをテーマにしたオンラインセミナーを開催した。
[講 師]
Nate Bolinさん
DLA Piper〈US〉所属。
DLA PiperワシントンDC事務所でパートナーとして関税を含む通商問題に対してサービスを提供。
[講 師]
倉本正丈さん
DLA Piper〈US〉所属。
DLA Piperニューヨーク事務所でプリンシパルエコノミストとして移転価格サービスに従事。
[講 師]
古賀陽子さん
DLA Piper〈Japan〉所属。
DLA Piper東京事務所でタックスディレクターとして国際税務、特に移転価格分野で事前確認制度、調査対応、文書作成などを担当。
[講 師]
鵜澤圭太郎さん
DLA Piper〈Japan〉所属。
DLA Piper東京事務所でオブカウンセルとして税務アドバイス、移転価格対応、税務争訟代理や一般企業法務の実務を担当。
セミナーでは最初にBolinさんが、米国通商法の最近の変更点を解説した。「通商法301に則り、2018年より米国は中国からの広範な輸入品に対して最大25%の関税を課しています。これに関しては、一部の製品に対する関税の適用除外が認められましたが、20年12月31日に全て失効し、バイデン大統領は引き続き、中国に対しての関税を継続しており、22年以降も関税は継続されると予想されます」。
鉄鋼とアルミニウムの輸入品に対する232条の関税については、「22年1月1日から米国はEU加盟国からの一定の鉄鋼およびアルミニウムの関税を解除します。一定量を超えた場合には、引き続き25%または10%の関税が課せられます」と語った。
ボーリンさんは続いてアンチダンピング/補助金相殺関税の最新事情を紹介した。「16年11月以降、さまざまな米国内の企業が幅広い輸入製品に関税を課すことを求めるアンチダンピングおよび補助金相殺関税法の申し立てを過去最多の件数行っています。さらに21年後半から22年にかけて、新たなケースが次々と発生することが予想されています」。
そして、関税の執行、中国関連の製品調達をはじめとするコンプライアンス調査について、米国税関・国境警備局(CBP)が貿易・輸入法の執行を大幅に強化していると述べ、警鐘を鳴らした。
次に登場した倉本さんは、追加関税の移転価格への影響について解説した。「米国では輸入申告価格の調整を行った場合は、米国税関国境警備局に報告義務があります。還付を受けるためには、5つの要件を満たす必要がありますが、製品輸入の前に歳入法第482条に準拠し作成された移転価格ポリシーが書面で存在すること、移転価格ポリシーに移転価格調整のメカニズムを明記することという要件がよく問題になります。どのような書類が該当するのか、どこまで詳細に調整の仕方など記載するべきかの明確なガイドラインはありませんので、移転価格文書、ポリシー、そして契約書の作成については早めに専門家に相談することをお勧めします」。
移転価格調整を通し、輸入製品の関税評価額を下げるアプローチに関しては、「本社が米国法人が持っているリスクを引き受けて移転価格を低く設定する方法などがありますが、事前にリスク分析を行う事を推奨いたします。また、追加関税対策として、追加課税に対象となる国をサプライチェーンから外していくなどの方法も選択肢の一つとして考えていく必要性があります」と語った。さらにバイデン政権下で財政確保のため関税と税務調査が強化される中では日本企業には、「関係部署間の連携と一元的な管理」と「各調査に十分対応できる移転価格文書の準備」などの対応策が必要と結んだ。
最後に鵜澤さんが、日本における関税の最新情報を紹介した。「日本でのCVD 措置は2006 年に韓国産DRAMの事例で発動したのみです。経済産業省は補助金を受けた輸入品が国産品に損害を与える場合、補助金相当額をオフセットするような関税を課す『相殺関税措置の活用に向けた提言』を公表し、本年秋から、各国との情報共有に注力しつつ、日本企業の個別相談に対応する窓口を整備していく方針です」。
今回の講師はいずれも「社内関係部署間のコミュニケーションと情報共有、文書の事前準備」の重要性を強調していた。