2021/7/1
去る5月25日、多くの日系企業にとっての課題でもある、ニューノーマルに適合するためのITを活用した事業改革や業務改善のトレンドに関するセミナーをオンラインで開催した。
[講 師]
高木 伸さん
Hitachi Solutions America, Ltd.
ディレクター。
日立ソリューションズに入社後、就業管理システム「リテシア」など企業向けソフトウエアの製品開発を担当後、シリコンバレーに赴任。現在、Hitachi Solutions Americaで自社開発ソフトウエアおよび日系企業向けマーケティングを担当。
[講 師]沖原 健さん
Microsoft Corporationのシニア・カスタマーサクセスマネージャー
2008年、日本マイクロソフトに入社。17年より米国マイクロソフトに転籍し、日本企業の米国法人・子会社のデジタルトランスフォーメーションや生産向上の支援・実現を「Office365」の活用を通じて担当。
最初に、日立ソリューションズの高木さんが登場し、新型コロナウイルスの影響下にあった過去1年半の経済動向について語った。
「現在、コロナ禍からは収束方向に向かっていますが、アメリカでは政権が交代し、人権問題も発生するなど、まさに時代が転換したような1年半だったと言えます。米国株式市場は、米国主要3指数が史上最高値を更新するとともに、2020年には122社ものベンチャー企業が誕生しました。そのうちの59%が米国の企業でした。また、現在注目されているユニコーン企業(高い成長性があり、投資対象として有望だと考えられるベンチャー企業)に、Better.comが挙げられます。同社はオンラインで不動産ローン事業を手掛けており、ユーザーはウェブサイトからローンを申請し、3分で承認を得ることができます。ローン申請は効率よくスピーディーに進めないと、希望していた申請時の利率より上がってしまうことから、迅速性を前面に出した同社の事業は大きな注目を浴びています」。
さらに高木さんは「自動車産業における脱炭素化も推進されています。2020年9月、カリフォルニア州は35年までに州内で販売する新車をEV(電気自動車)またはZEV(Zero Emission Vechicle:排出ガスを一切出さない電気自動車)に義務化することを発表し、また、10月には中国が同じく35年までに新車をEVまたはHV(Hybrid Vehicle)にすると発表しました。さらに21年1月、GM(General Motors)が35年までにEVとZEVへの全面切り替えを発表しました。これによりEVインフラの拡充が進んでいきます。米国政府主導で50万台のEV Chargerの追加が計画されています。Shellも25年までにEV Chargerを6万台から50万台に拡大する予定です。Charge Pointは今年3月にSPACに上場を果たしました」と具体的な数字を挙げながら解説した。
また、バイデン政権誕生後も米中対立は継続しており、メーカーの国内回帰の傾向はトランプ政権時から変化していない。このような流れから、インテルが約200億ドルを投じ、アリゾナ州の敷地内に2工場を建設する投資計画についても高木さんは触れた。
続いて、日立ソリューションズの顧客のケーススタディーが紹介された。「顧客は海外の半導体メーカーに半導体製造装置を販売しているメーカーです。コロナの影響で現地への渡航が不可能となったため、そのソリューションとして、従来の現地保守から、遠隔保守ができるようにスキームを変更しました。このように現地に行かずに済む保守作業のリモート化が今後も進むと考えられます」。
さらに、巣ごもり需要による消費増の結果、Eコマースが44%の伸びを見せた。「巣ごもり製品を取り扱うWalmartやTargetは、過去最高水準の増益を記録しました。他方、デジタル化への対応の遅れも一因とされる、Neiman MarcusやJ.Crewは倒産に追い込まれました」。
小売業界におけるデジタル化に関しては、日立ソリューションズが手がけた「手ぶら決済、手ぶらログイン」が例に挙げられ、生体情報を保存しない生体認証が進んでいくと説明された。
次に登場したマイクロソフトの沖原さんは、時事ニュースの中から垣間見えるIT活用のトレンドについて紹介した。
「まずは94%という数字です。これはマルウェアの94%はメールで送られてくるということです。メールに添付されたファイルを開くことで未知のウイルスに感染してしまうという被害です。また、記憶に新しいのがColonial Pipelineが被害を受けたランサムウエア攻撃です。こういったケースは、政治的な理由ではなく、単なる金銭目的のケースがほとんどです。同社は440万ドルを支払って解決したと言われています」。沖原さんはランサムウエア被害に遭った側が支払った身代金の平均額が31万2493ドルであることも紹介し、企業がこれらの攻撃に対するセキュリティー対策、具体的には侵入対策、エンドポイント防御、データバックアップおよび監査ログ管理を早急に導入する必要があると強調した。
また、リモートワークが推進されたことにより、新たなハラスメントとして浮かび上がってきた「リモハラ=リモートハラスメント」について紹介された。2020年に改正された「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」により企業がパワハラの防止対策を講じることが義務化されている中、「昨今、遠隔でのパワハラ、セクハラが問題となっています。相手の画面の背景や服装に触れるだけでもリモハラと受け取られる可能性があるので、言動には注意が必要です」と、沖原さんは注意喚起した。
さらに、高木さん同様に、リモートワークは今後、オフィス出勤とのハイブリッドなスタイルになりそうだと沖原さんは予測した。「これにより、必要に迫られるのが、固定電話のクラウド化です。PCや携帯があれば、どこにいても固定電話の番号を受信できます。また、物理的なオフィスを縮小しようとしている経営者の割合は(アメリカでは)17%です。これは全体的にトーンダウンしています。毎日出勤しなくても、皆が集まるオフィスは物理的に必要だとは認識しているようです」。
最後に沖原さんは、IT化を促進させる製品に関しては現在幅広い選択肢が市場に出回っているので、自社にとって最適だと思う製品をうまく選択してほしいとメッセージを送った。