2020/12/1
去る10月20日、Ernst & Young LLPから3名の講師を迎え、第230回JBAビジネスセミナー「新型コロナウイルスにおける会計上の留意点及びアメリカ税務実務の最新動向について」を「Zoom」で開催した。
[講 師]
秦正彦さん
Ernst & Young LLP
国際法人税務パートナー
[講 師]村井祥さん
Ernst & Young LLP
移転価格パートナー
[講 師]川西立さん
Ernst & Young LLP
会計監査シニア・マネージャー
Web: www.ey.com/en_us
最初に国際法人税務パートナーの秦さんが、外国から進出している企業への新型コロナウイルスの税金面での影響について、次のように話した。「新型コロナ対策に伴う各国の財政悪化から、ある程度経済復興の見通しが立つタイミングで(当局が)課税を強化してくることになると思います。歳入確保の局面で外国企業はターゲットとされやすいと言えます」。
バイデン政権が誕生した場合のタックスポリシーについては、「主流メディアが言っていることから離れて冷静に観察してみると、トランプ政権は規制緩和を行い、税率を下げるという面でビジネスをやる側には恩典がありました。さらに、コロナ前の失業率が歴史的水準まで低下しました。一方、バイデン氏は初日から法人税を28%にすると明言しており、州税を加えると33%になる可能性があります。ところが、本当にこれが初日からできるのかと考えてみると、大統領は、法人税率を含む法律を可決することはできないのです。議会、行政、司法と三権は分立しており、仮に議会の両院でバイデン氏と同じ民主党が過半数の議席を確保できたとしても、法案が通るのは2021年の後半です。民主党が下院で議席を失い、上院は現時点では共和党が多数という点も加味すると、来年すぐに法人税が28%になる可能性は低いでしょう」と解説した。
続いて、日本企業のグローバル利益配分状況について、村井さんが解説した。「新型コロナウイルスにより主要国での利益率の格差が拡大しており、また、当局はインターネット上で公開されている国別報告書などから企業のグローバルでの利益按分状況をしっかりチェックしています。そのため、各国の課税当局による移転価格の取り締まり強化が予想されており、企業はグローバルでの利益配分を考えながら移転価格管理を行う重要性がより一層高まってきています」と述べた。
また、「米国では、ペナルティー回避目的の移転価格同時文書化を整備される企業が多いですが、同時文書化を作成する前に、会計監査手続き上の移転価格レビュープロセスでコロナによる移転価格問題に対応する必要があります。そして、今年コロナの影響が深刻だという企業は、できるだけ早く担当アドバイザーとご相談いただくことをお勧めします。グローバルで税務環境が激変している今だからこそ、既存の移転価格ポリシーが今後も機能するかどうかを見直すには、いいタイミングだと思います」と述べた。
最後に川西さんが、財務会計基準審議会が発行した救済措置およびCoronavirus Aid, Relief, and Economic Security (CARES) Actに関連する会計処理を紹介した。「財務会計基準審議会は新型コロナウイルスの対応に追われる非上場企業の実務上の負荷を軽減するために新リース基準(ASC842)強制適用を1年延期しました。CARES Actにおける給与補償プログラム(PPP)ローンについては、米国の借入金の会計基準のみならず、国際会計基準の政府補助金のルール等に基づく処理も認められます」。
また、川西さんによれば、CARES Actにより繰越欠損金の繰り戻しなどの税務関連規定が変更されたため、繰延税金資産の評価など、会計上の処理についても注意が必要とのことだ。