JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2019/4/23

企画マーケティング部会 第218回 JBAビジネスセミナー報告「第四次産業革命でカギを握る管理職のあり方とエンゲージメント」

去る4月23日、トーランスのMiyako Hybrid Hotelで第218回JBAセミナーが開催された。今回のタイトルは「第四次産業革命でカギを握る管理職のあり方とエンゲージメント」。カネコアンドアソシエイツ代表の金子信義さんと同社青木真紀子さんが講師を務める2部構成で行われた。

金子信義さん
[講 師]
金子信義さん

南カリフォルニアと東京に拠点を置くカネコアンドアソシエイツ代表。グローバルエグゼクティブサーチファームとして21年間にわたり、大手会計事務所や弁護士事務所のパートナーレベルのサーチ業に従事。管理職の雇用と人事戦略に豊富な経験を有する。

青木真紀子さん
[講 師]
青木真紀子さん

カネコアンドアソシエイツの南カリフォニアオフィスでオンボードプログラムの導入を担当。2005年から同社勤務のかたわら、ペッパーダイン大学で臨床心理学修士号を取得。カリフォルニア州心理療法士の資格を持つ。

デジタル化の波に乗るには

「第四次産業革命」というフレーズは2016年の世界経済フォーラムで初めて紹介された。1980年代からの第三次産業革命となるデジタル革命に続き、この第四次革命では、ロボット工学、人工知能、モノのインターネット、自動運転など多岐にわたる分野での顕著な技術革新によって産業の形態が変わっていくとされる。今回のセミナーのタイトルにもあるように、この新しい時代を生き残る組織とその組織を牽引していく管理職のあり方が問われている。そこで今回は第一部を「第四次ビジネス革命における課題とエンゲージメント」、第二部を「これからのリーダーに必要なスキル」と題して、デジタル革命の現状とこの時代に生きる管理職のあり方についてそれぞれ解説が成された。

冒頭、カネコアンドアソシエイツの代表、金子さんは「私たちはデジタル化の波の真っ只中にいます。この流れから逃げ切りたいと思っている方、いらっしゃいますか?」と会場に問いかけた。挙手した参加者は1名。「私もそうです。このままリタイヤしたいと思っています(笑)。しかし、30代、40代の方は逃げきれません。若い世代の方にとっては(デジタル化社会が)現実です。そして、このような時代だからこそ、人と人とのコミュニケーションを強化しなければならないと考えます」と、孤独に感じがちなハイテク社会の中での「ハイタッチ」の必要性について触れた。

続いて、第四次産業革命の時代を迎え、今後、なくなってしまうことが予想されている仕事が紹介された。「2030年には、今の仕事の30%から45%のポジションがなくなると言われています。単純作業、中でもテレフォンオペレーター、バンクテラー(銀行の窓口係)といったオートメーションで代用できる仕事は、明らかになくなります。また、パラリーガルやタクシー運転手もなくなると思います。タクシー運転手がなくなる根拠は、今でも実は自動運転が技術的には可能だからです。しかし、まだ、法律やルール作りが定まっていないために実用化が本格的に開始されていない状況です。仕事のポジションだけでなく、会社の中でペーパーレス化も今後加速していくはずです」。

金子さんによると、“HRテック“と呼ばれる人事採用関係のアプリをはじめとするテクノロジーを日本で提供している企業数は299に上るという。「この数は今後もますます増えていくと思います。私も家では主にアプリを使います。例えば銀行の手続きをするのもアプリです。路面店に直接出向くことは年に一度くらいでしょうか。同じように、会社でもアプリで用事を済ませるようになっていくはずです。(日本の)会社は、今は(アプリではなく)ハンコを使っていますね。しかし、今後は変わっていくでしょう」。さらに金子さんは、日本政府が発表した新紙幣の話題を出した。「このキャッシュレスの時代に果たして紙幣が必要だろうか?と思います。仮想通貨だけで良いのではないか、というのが私の考えです」。

 

「コダックモーメント」回避するには

次に金子さんは、2016年にMicrosoftに2兆9600億円で買収されたLinkedInの機能を紹介した。「LinkedInは、世界最大級のビジネスに特化したSNSツールです。ユーザーは約5億人と、アメリカの人口を超えています。日本での登録者数は約200万人です。私がヘッドハンターの業界に入った21年前にこのツールは存在せず、候補者の方のレジュメ(履歴書)をファックスで送るしかありませんでした。今はLinkedInで候補者を確認し、参考にしています。プロフェッショナルの方でまだ登録していないなら、すぐにページを作成していただきたいですね」。金子さんは実際に会場からLinkedInに登録している人の協力を求め、ページを閲覧しながら、表示されている情報が実態とマッチしているかどうかを確認することで、LinkedInの有用性を検証した。

また、金子さんはデジタルツールに向き合うジェネレーションギャップの一例として以下のような経験を披露した。「ミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた世代)の従業員からLINEを通じて『来月、退職したいと思います』と知らされたことがあります。こういう連絡はあり得るのかな、と最初疑問に思いました。しかし、果たしてメールとLINEの何が違うのかと考えると、これでもありなのかもと思うようになりました」。世代によってデジタルリテラシーや意識が明らかに違うことから、管理職側にもより柔軟な対応が求められるということだ。

さらに、デジタル化の波に乗ることを阻み、時代から乗り遅れた例としてKodakのエピソードが紹介された。「アナログのカメラの売り上げが好調だったKodak社は、デジタル化に積極的に進もうとはしませんでした。最盛期の従業員数は実に14万人。ところが2013年に倒産し、上場をし直しました。今のKodakの従業員数は世界で6500人しかいません。一方、Kodakの競争相手だった富士フイルムは、Kodakとは別方向に進みました。自ら変化を作る企業でなければならない、との理念の下、デジタル化はもちろん、ビジネス複合機や医療品、化粧品の分野に進出しました。Kodakはデジタル革命の犠牲者です。かつて、“コダックモーメント”と言えば、写真に残す最高の瞬間のことでした。しかし、今では企業が変化する市場に適応できず衰退してしまうことをコダックモーメントと呼ぶようになってしまいました」。

時代の変化に適応すべきなのは企業だけではない。何よりも、企業の内外で働く人材にも、時代への対応が求められている。「例えば、クライアントの企業から自動車に特化したコンサルタントを探してほしいというリクエストをいただく場合、10年前と今とでは、同じ自動車関係のコンサルタントでも人材像が違います。専門知識を有していることはもちろん、さらにデジタル化に対応したデータリテラシーが要件となるほか、特に今だと、自動車に必要不可欠なサイバーセキュリティーの知識を持ち合わせていることが求められます。サイバーセキュリティーは昨今の自動車業界において最重要課題です。対策をしっかり立てなければ、自動車は武器になり、人を簡単に拉致することも可能になります。車1台でテロ事件が起こり、国家が崩壊してもおかしくない時代なのです。一昔前のオートモービル・コンサルタントでは通用しなくなりました」。

そして、アメリカの薬局チェーンのCVSPharmacyが、新会長の決断でタバコを販売しなくなったニュースが取り上げられた。「翌日、CVS Pharmacyの株は暴落しました。しかし、アナリストたちはヘルスカンパニーとしての理念あってこその決断であり、長期的にWalgreensら競合他社を超える存在になるはずだと見ています」。コダックモーメントを迎えないために、企業は長期的な視野の上に立った建設的な決断を実行に移すべきだと強調した。

 

問題に取り組む姿見せスタッフの鏡となる

第二部で登壇したのは、カネコアソシエイツ社で、クライアント企業に新たに採用された人材の教育(オンボーディング)を担当している青木真紀子さん。青木さんは「これからのリーダーに必要なスキル」について解説した。

「今は在宅で仕事をしていても、(人を介在しなくても)いつでも何でも手に入る時代です。何でもデリバリーしてもらえます。だからこそ、人との関わり方が重要になってきます。デジタル時代にあえて見直してほしいのが、全ては人から始まっているということなのです」と、青木さんは人とのコミュニケーションの重要性を再認識してほしいと訴えた。

そのために、管理職は従業員の手本となり、柔軟な姿勢を見せていくことが必要だと続けた。柔軟性は組織にも求められる。「イノベーションが可能な状況を作り出すことが大事です。つまり、組織形態が身軽であれば、素早く変化に対応できます。これは大きな企業になるほど難しいかもしれません。しかし、スタッフの新しい発想を自由に試していけるような環境作りに努めていただきたいと思います。競争に勝ち残るには、安定した状況に満足することなく、改善策を打ち出し続けることが可能な組織であることが必要です。そのためにも、管理職はスタッフに、常に的確でインテリジェントなフィードバックを与えなければなりません。また、計算されたリスクを折り込み済みで、スタッフの『やってみよう』という挑戦への後押しも不可欠です。そのための環境と資源をスタッフに提供してあげてください」。

このようなことを実践するためには、管理職とスタッフとの間の「信頼」が鍵となる。「リモートで仕事をされている方もいると思います。自分の上司にすぐ連絡がつきますか? 相談したいと思った時にすぐに話せますか? 互いにつながっていることを実感できる信頼関係を日頃から築くようにしてください」と、青木さんはデジタル時代だからこそ、人と人がすぐにつながり、素直に心を打ち明けられる信頼関係の構築の重要性について改めて強調した。

まとめとして青木さんが紹介した「成功するリーダーに共通する5つの特徴」は次の通り。「固定概念を覆す発想力と行動力」「感情知性の高さ」「刺激とやる気を与えられること」「順応性があり他者に共感すること」「先々を見越す力を備えていること」。そして、人間は他者を鏡とする(ミラーリング)生き物であることから、リーダーになるべき人は理想的な姿を模索し、その姿を周囲に見せること、そのためには自分自身に課された問題から逃げずに取り組むことが組織改革への第一歩であると、青木さんはセミナー参加者にメッセージを送った。

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