2018/4/20
去る4月20日、トーランスのMiyako Hybrid Hotelで第211回JBAビジネスセミナーを開催した。今回のセミナー講師はUSJP Business Advisors LLC.の遠山明彦さん。30年にわたるコンサルティングの経験から、アメリカにおいて強い組織を築くためのポイントを、日本との文化の違いを挙げながら解説した。
[講 師]
遠山明彦さん
USJP Business Advisors LLC代表。1980年、ロサンゼルスに移住。大学卒業以来コンサルティング業務に携わり、2009年、USJPを設立。システム導入、人事、内部統制、事業拡大などの案件に関わる。顧客企業は、これまでに日米合わせて130を超える。
強い組織とは「競争力を持ち続けることのできる組織」とした遠山さん。初めに現地法人の社員の持つ日本企業、日本人駐在員へのイメージを挙げ、「日本企業は金儲けできれば良い、ではなく社会貢献意識が高い。業績は安定していて良い人が多いというポジティブな印象を持たれている。一方、リスクを取らず、意思決定に時間がかかる、形式を気にして効率が悪い、などネガティブな意見も聞かれます」と指摘。
また、「日本にいる時は日本のやり方が普通ですが、アメリカでは日本の企業はかなりユニークな存在ということを、常に認識していただいたほうが良い」と前置きし、強い組織を構築するポイントを、以下の5つのステップに分けて解説した。
組織のプランを立てるとは、いわゆる組織図を描くこと。拠点の場所から部署の役割、どんな人員を置くかといったことまで絵を描くことだ。日本では就職後、同じ企業で長く働くことが多いため、組織を短期間で変えることは難しい。一方アメリカでは、社員を「ある種の流動資産」と捉えるため、部署を増やす、減らす、人を動かすといったことが容易であり、マネジメントの中で組織のデザインが非常に重要となる。
その中で、欲しい人材を考える際、「技術や知識といった観点はもちろんだが、もう少しソフトの部分から見ることも必要」と、遠山さん。ソフトの部分とはコミュニケーションスキルや新たなアイデアを思い付く力、部下への思いやりなどが挙げられ、それらを含めた広い意味で、各ポジションにどんな人がほしいかという要件を定義することが重要である、とした。
現在、日本の離職率は平均4.2%。一方アメリカでは、比較的離職率の低い政府機関でも18.3%に上るなど、日本に比べ非常に高い。遠山さんは「もちろん業種や地域、景気によって違いますが、あえて言うと感覚的には15~20%ぐらいが適正だと思います。アメリカの企業は離職率を下げようと努力していますが、日本企業は逆に低すぎて損をしている企業が多いです」とし、健全な組織を維持するためにある程度の人材の入れ替えは必要だと述べた。
アメリカでは、採用を主導するのは人事部ではなく採用部署の管理職者であるのが一般的だ。また、転職、中途採用が当たり前なので、日本と比較すると候補者の求職に関する経験値が高い。「良い人材を採用したい」と考えた時には、そうした転職の経験値の高い求職者を相手にすることを心に留めておく必要があるという。「うちは大きい会社で業界トップ、日本人なら誰でも知っているよ、といった漠然としたオファーではなかなか良い人材は来てくれない」と遠山さん。「優秀な人材を獲得するには、こちらから出て行って良い人材とコネを作り、なぜその人が自分の会社に必要なのか熱意を持って口説く」ことも大切だという。
また、優秀な人材を市場価値より安い報酬で獲得するというのは難しく、見合った対価が必要。それを払えないのであれば臨時社員、契約社員などの形態を利用するといった方法もあると指摘した。特に現在のアメリカは非常に景気が良く、採用が難しい状況。良い人材を獲得するには、友人や社員の紹介、人材紹介エージェントを利用するなど、さまざまな方法を使って積極的に採用活動を行うことが大切である、とした。
組織のあり方の前提として、日本はお互いが理解してくれるという文化で、会社でもルールや役割が曖昧な部分が大きい。一方アメリカでは、特定の業務や知識に対して報酬が支払われ、仕事のやり方やルールが具体的に定義されている。そして雇われる側はその定義された自分の仕事のみをこなすというのが一般的。
「日米を比較すると、アメリカの方が一人あたりの生産性は高いと思います。」と考察を述べた遠山さん。「日本人が形式を重視するのに対し、アメリカではスピード、実用性を重視します。まずやってみて、失敗したら直せばいいという考え方で、積極的にリスクを取る姿勢も特徴です」と話す。「優秀な人は生産性の高い環境を好むので、生産性の高い職場環境を作ることが重要になります」と話し、ITシステムや教育を含めた環境整備の必要性を強調する。
意思決定については、「アメリカではトップダウンが必要と思います。トップが『これがうちの方針だからこうするよ。嫌だったら他に移っていいよ』というくらいの気持ちが重要だと思います」と話し、日本のように皆の立場を考慮した折衷案の作成に時間をかけるのは有効ではないと指摘。また、短期間で結果が分かる3カ月程度のプロジェクトを次々と組んで長期目標に向かうのも成功の秘訣とのことだ。
一方で、社員は仕事以外の話をしたいという気持ちも持っている。「場所やタイミングに応じてトピックを選ぶ必要はありますが、自分から話しかけていくことで、社員一人一人と関係を作っていくことが大切です」というように、趣味、スポーツや娯楽、ときには家族や子どもの話をすることで、チームワークが高まると話す。また、バーベキュー、ボーリング大会、ピクニックなど、手軽に社員同士の絆を深めるイベントの機会を設けると、会社に対するロイヤリティー向上につながる、とした。
次に組織から個人に話題が移った。遠山さんは個人の能力や判断を最大限尊重する企業の例として、Netflixを挙げた。Netflixは、目標達成のためには経費の使い方、休みの取り方などの権限を全て社員に与え、結果のみで評価するという会社だ。権限を与えることでモチベーションを高める極端な例である。
社内での重要なコミュニケーションの一つであるフィードバックについては、対面で言葉を交わすこと、特に「褒める」ことの大切さを強調した。改善を促す際も、まずはやってくれたことを褒め、次に改善点を指摘し、最後にやる気にさせる言葉を添える、といった工夫が必要である、とした。
また、目標を立てる際には、会社としての大きな目標、部門の目標、そして個人の目標という結び付きがなくてはいけない。そして、人事考課では、SMART(Specific、Measurable、Achievable、Relevant、Time limited)という5つの条件を満たすゴールを決め、評価する必要がある。その際に、単に点数を付けるのでなく、今後につながる具体的なアドバイスをするよう心掛ける。また特に良い成績を収めたら+20%や+25%の昇給、逆の場合は0%や−10%の減給とはっきりと差を付けるべきで、そうしなければ良い人材は他社に移り、悪い人材は転職しなくなるので注意しなければいけない、とした。
最後に、強い組織をいかに維持するかを解説。アメリカの労働者へのアンケートによると、労働者が会社に最も求めていることは「会社の社員を重視する姿勢」だ。「報酬額」はこれに続く2位で、社員を重視する姿勢をより重要と考える人が多い。他に上位には、「幹部と一般社員の相互信頼」や「自分の能力を発揮する機会」も入っており、これらは特に重要な点だと述べた。
社員と会社の関係を強める、「エンゲージメント」を高めるためには、目標を共有すること、自由や権限、責任を与えること、などが大切だという。潜在能力のある社員にはどんどんと情報を開示し、学習機会を与えることで、能力を発揮させ、会社に対するエンゲージメントを高めることができる、とした。
最後に、強い組織を維持するためには新陳代謝も不可欠だ。生産性の低い人や会社に必要のない人は解雇、または降格することが重要になる。そういった経験がない駐在員社長には難しいことではあるが、遠山さんは「これは絶対にしなくてはいけない作業です」と話す。「アメリカ人が現地法人の社長になると新陳代謝が一気に進む例は多いが、日本人が社長の組織でも雇用制度や解雇の方法を勉強した上で行っているところはある。組織の5年後、10年後を考えた時に、継続的な新陳代謝は非常に重要なのです」とまとめた。