2017/8/28
去る8月28日、トーランスのToyota USA Automobile Museumで第204回ビジネスセミナーを開催した。在ロサンゼルス日本国総領事館・領事警備班の高橋領事と日高副領事から、ロサンゼルスの治安情勢や各企業や個人でできる対応策、総領事館の邦人援護などの情報が提供された。
[講 師]
日高奨太さん
在ロサンゼルス日本国総領事館・領事警備班・副領事。2016年、防衛省より出向。
領事警備班で施設の警備対策等を担当している日高副領事。安全対策について「まず基本となるのは情報収集です」と話し始めた。外務省領事局邦人テロ対策室が出している『海外赴任者のための安全対策小読本』でも情報収集の重要性が述べられており、そこでは「滞在国における脅威の対象(形態、種類)」つまりどういった犯罪が起きているか、「最近発生している治安関連事件の概要と教訓」など収集すべき情報9項目が具体的に挙げられている。「こうした情報の収集先としては、新聞、テレビ、ラジオ、インターネット等の公開情報に加え、信頼できる人物や駐在員であれば前任者からの情報、外務省の海外安全ホームページ(www.anzen.mofa.go.jp)、在ロサンゼルス総領事館のウェブサイト(www.la.us.emb-japan.go.jp/web/home.htm)を参照してください。『在留届』(www.ezairyu.mofa.go.jp/RRnet)や『たびレジ』(www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg)に登録をしておくとメールで情報が送られてくるので、それらの登録は確実に行ってください」。
続いて当地の治安情報についてのブリーフィングを行った。「治安についての最新情報について、FBIやLAPD(ロサンゼルス市警察)等に連絡したところ、どの組織からも『CrimeMapping.com』を参照するようにということです。これは100以上の治安当局からの情報を集約し分かりやすく犯罪情報を提供しているものです」。LAPDの管轄区では2016年に28,084件の凶悪犯罪等が検挙されている。なお面積、人口ともにLAPD管轄区の倍である東京都では同時期に9,750件の凶悪犯罪が検挙されている。とはいえLA全域が危険なわけではなく、犯罪が発生しやすい地域が存在する。「多種多様な犯罪が多く発生する地域としてはダウンタウン・ロサンゼルス、サウスロサンゼルス、イングルウッド、ウィローブルック、コンプトンが挙げられます。財物目的の犯罪が多く発生しているのは観光地として栄えているサンタモニカ、ハリウッドです。こうした財物目的の犯罪の発生時間は半数以上が夜間で、ハリウッドでは車上荒らしも多く発生しています」。
日高副領事はこうした情報を入手し、安全対策に活かしてほしいと強調。「多額の現金は持ち歩かない、貴重品を目に見える形で車の中に放置しないなどの貴重品の管理や、居住区・訪問先のしっかりとした選定、施錠、人ごみでの長期滞在や夜間の一人歩きを避けるといった基本的なことを日々の生活の中できちんと行ってください」。
日高副領事は続いてテロ・誘拐対策について解説した。「近年、世界各国で発生している無差別テロはもはや邦人も対象外ではなく、中東や北アフリカなどの限られた地域だけで発生するものではありません」。過激派テロ組織イスラム国は日本を名指しで標的としており、ロサンゼルスもテロの対象とされている。いつ、どこで、誰に対して発生するか分からないテロに対しては、基本としては「危ない国・場所・時間帯を避ける」「用心を怠らない、目立たない」「周囲の不審者・不審物に注意を払う」「万が一に備える」こと。もし自分の周囲で何かが発生した場合はその場に伏せ、安全なところまで避難する。その後、可能な範囲で大使館・総領事館に情報を寄せてほしいと話す。
また銃社会のアメリカでは銃乱射事件にも注意が必要である。アメリカで2014年に銃によって起きた殺人事件は8,124件。対して日本では6件である。「米国土安全保障省によると、銃乱射事件では被害者選別に係る傾向や規則性は見られないと言われています。犯人の目的は大量殺戮です」。発生場所としては、大人数が集まる商業施設や教育施設が多い。対策としてはテロ対策同様、情報収集をし、危険な場所・時期・時間帯を避けること。「用心を怠らず、万が一に備えて非常口や退避ルートを常に確認する癖をつけてください。また何かがあった時に隠れる場所を速やかに見つけられるよう、日頃から周囲に気を付けてください」。
アメリカでは銃乱射事件発生時の対応として「Run. Hide. Fight」が原則とされている。「事件に気付いたら、荷物は置いてとにかく逃げてください。可能であれば周りを助けますが、まずは自分自身のことを考えてください」。そして安全を確保した後に911へ通報する。逃げられない場合は隠れる場所を探し身を隠すこと。「ライトは消しドアには鍵をかけ、バリケードを築いて、ドアや窓から離れてください。音を立てると犯人の標的になりやすいので携帯電話はサイレントモードにしてください」。逃げも隠れもできなかった場合は、戦うことになる。「身近にあるもの全てを武器にして、どんなことをしてでも生き延びるという強い意志を持って戦ってください。撃たれる=死ぬではありません。手や足を撃たれても全力で戦ってください」。またそうした現場に最初に到着する治安当局は制圧チームであって、負傷者救出チームではないので、犯人と間違われないよう騒がず両手を挙げて動かないこと。
最後に施設の安全対策が紹介された。対策は多様な方法があるが、現実にはかけられる人とお金には限界がある。まずは近隣の脅威の形態に応じた必要最低限の措置「ミニマムスタンダード」と、近隣や同種施設に見劣りせず、ターゲットとなりにくい「横並びの警備」を心がけることが重要である。
[講 師]
高橋秀夫さん
在ロサンゼルス日本国総領事館・領事警備班・領事。2014年、法務省より出向。
第2部では総領事館が対応している邦人援護案件について紹介された。邦人援護を担当する高橋領事はまず2015年の邦人援護の統計を紹介。在ロサンゼルス日本国総領事館は752件。「この半分近くはパスポートをなくした、盗まれたなどパスポートに関するものです」。
続いて具体的に領事館がどういう案件を扱っているかについて、「事故・災害」「犯罪(被害)」「犯罪(加害)」「その他」と4つのカテゴリーに分け、最近の事例を挙げながら解説された。例えば「犯罪(加害)」については、「日本では普通の夫婦喧嘩であっても、アメリカではもし手が出たような場合は目撃者によって通報が行われ、どちらかが逮捕されるケースもありますので留意してください」と注意が促された。
領事館は邦人の関わる全てのトラブルに対応できるわけではない。できることは「警察への届出に関する助言」「家族との連絡支援」「家族や知人からの送金に関する助言」「弁護士・通訳情報の提供」「被拘禁者に対する領事面会」などである。一方でできないのは「金銭の供与、立て替え、支払い保証」「通訳・翻訳」「専門的な法律相談」「犯罪の捜査、逮捕、取り締まり」「私的争いの仲裁、訴訟への介入」などである。
そして総領事館からのお願いとして、5つのことが挙げられた。1つ目がマリファナ(大麻)についてである。「カリフォルニア州では16年の住民投票でマリファナの合法化が決定されましたが、日本の大麻取締法では、日本国外においても大麻の所持・譲り受け・譲り渡しは禁止されています」。加えて、大麻乱用による心身への影響について厚生労働省の報告も紹介された。
2つ目は大災害、大事件の際の邦人被害情報の共有のお願いである。身近に邦人の被害が出ている場合には領事館宛に連絡をしてほしいとのこと。「3つ目は各種保険の加入です。事件や事故などに遭った場合、アメリカでは非常に高額な費用がかかるため、保険に入ってきちんと備えてください」。
4つ目は家族や友人に対する情報提供である。「旅行などをする際は、家族や友人などに出掛ける旨を伝え、事件や事故など何かトラブルが起きた場合に、周囲が安全を確認できるようにしてください」。
5つ目は「在留届」「たびレジ」への登録である。「長期滞在の方は『たびレジ』は関係ないものと思われるかもしれませんが、長期滞在している場所を離れて、例えばメキシコなどに旅行に行く際は、それを『たびレジ』に登録していただくことで、現地の在外公館から情報をお届けできます」。