2023/9/1
今年もJBAとカリフォルニア州北部の日系商工会議所である北加日本商工会議所(Japanese Chamber of Commerce of Northern California=JCCNC)の共同企画で、カリフォルニア州の州都サクラメントを訪問し、州政府の政治家や機関、商工会議所との意見交換会を行った。訪問先には上院議員5名、下院議員2名、Eleni Kousalakis副知事の参謀および カリフォルニア州経済促進知事室(GO-Biz)職員4名が含まれており、さらにカリフォルニア州商工会議所の総本山であるCal ChamberのPresident、VPとの昼食会も行った。多くの議題は気候変動、クリーンエネルギー、イノベーションなど、カリフォルニア州と日本の協力に焦点を当てたもので、訪問団は最終日には上院州議会議事堂でWiener議員に紹介され、表敬された。
〈今回の訪問日程〉
■6月14日(水)
●Toni Atkins上院議員(上院仮議長、継承第3位)、Steve Glazer上院議員、Scott Weiner上院議員との会談
●Lena Gonzalez上院議員との会談
●Al Muratsuchi下院議員との会談
●Evan Low下院議員との会談
●Ban Allen上院議員との会談
●Matthew Dumlao副知事参謀とカリフォルニア州経済促進知事室のメンバーとの会談
■6月15日(木)
●カリフォルニア州上院議会の訪問および表敬Toni
〈参加者〉
JBA:山本会長(Mitsubishi Corporation (Americas))、酒井商工副部会長(Premier Kaikei LLP)、小林商工部会員(All Nippon Airways Co., Ltd.)、篠原商工部会員(Takenaka Partners LLC)、安江JBA専務理事
JCCNC:馬場会頭(Mitsubishi Corporation (Americas))、五味副会頭(NTT Research)、栗原ガバメントリレーションズ委員(Sumitomo Corporation of Americas)、佐藤ガバメントリレーションズ委員(Itochu International Inc.)、工田ガバメントリレーションズ委員(US Asia Venture Partners)、洞JCCNC事務局長
訪問最初の会談は、訪日経験のある3人のカリフォルニア州上院議員と行った。その中でもSenator Toni Atkins上院議員はカリフォルニア州上院議会のリーダー(Senate President Pro Tempore)。お互いに自己紹介を行った後、訪問団からはロサンゼルス港で進行中の水素燃料駆動機器導入の実例を共有した。また、カリフォルニア州が掲げるゼロエミッションゴールへ向けて、水素燃料機器や貯蔵施設に関する法整備を提案した。これらの法整備がカリフォルニア州議会で早期に承認されれば、現在日本で開発中の同機器や施設をカリフォルニア州の法律に適合させることができ、将来的な導入が円滑に進むことが期待される。
さらに訪問団は、これらの日本からの機器導入が実現すれば、日系企業からのさらなる現地への投資を促進し、関連産業の現地雇用を増加させる一助となると説明した。また、カリフォルニア州からの企業流出についても議論があり、Wiener議員は、「HPやテスラなどの加州有力企業が本社をテキサスに移転しても、カリフォルニア州内でのビジネスは着実に成長し、雇用が増加している。つまり、実際には騒がれているような企業流出の影響は限定的である」との見解を述べた。Atkins議員とGlazer議員も、「我々の任期は残り少ないが、日本とカリフォルニア州の良好な関係を維持するためには、JCCNCおよびJBAとの連携が重要であり、後継者にもその連携を引き継ぐよう努力していきたい」と述べ、会談を締めくくった
Gonzalez議員は、アメリカ最大級の港湾であるロングビーチ港を含む選挙区から選出された議員。2022年11月に来日し、神戸港とロングビーチ港のカーボンニュートラル港に関するMOUを視察している。
会談では、訪問団から日本とカリフォルニア州がグリーン輸送回廊の設立に調印したこと、そして日本企業の水素燃料機器や貯蔵施設のカリフォルニア州の港湾への提供の可能性について話した。また、カリフォルニア港湾の水素関連規制法案がまだ立案されていないことが問題であり、日本の港湾設備がカリフォルニア州の規制に適合、展開できるように、できるだけ早く水素規制の草案を作成することを検討するよう要望した。Gonzalez議員は、脱炭素化が難しい海運業などの産業において、カリフォルニア州が大きなインパクトを持つ水素の最初のユースケースや研究を推進すべきだという意欲を示した。また、ターミナルオペレーター(組合)が水素導入に対してどのような反応を示しているかにも興味を持っていた。さらに、データの統合と連携による州全体の輸送データのデジタル化プラットフォームの実現を目指す意欲も示した。
最後に、訪問団は日本のカリフォルニア州への海外直接投資による雇用創出と賃金向上の重要性にも言及し、両国の経済的協力を強調した。
Al Muratsuchi議員は、多くの日系企業が集まるトーランスを選挙区とするカリフォルニア州唯一の日系議員。JBAは同氏との緊密な関係を築いており、サクラメント訪問時には毎年面談を行っている。
同議員は、カリフォルニア州と日本との経済関係の重要性を深く理解しており、以前から東京にカリフォルニア州のオフィスを再開設したいという意欲を示している。今年3月には、州政府の日本貿易代表団の一員として訪日し、経団連内でカリフォルニア州デスクの開設に関する調印式に立ち会い、「事務所を求めていましたが、デスクだけでも確保できたことは素晴らしいスタートです」と語った。また、GDP世界第3位の国である日本と世界第5位のカリフォルニア州が、気候変動と闘い、クリーンエネルギーを推進するために連携することに期待したほか、高速鉄道分野での協力についても触れた。そして最後に、「日本はアメリカにとって最も重要な同盟国の一つであり、それはビジネスや投資、パートナーシップにおいても同様だと信じています。私はそのような国際的な投資を促進するサポートができると考えています」と締めくくった
Evan Low議員は、シリコンバレーの中心地であるクパチーノを選挙区に持ち、現在カリフォルニア州アジア系アメリカ人およびパシフィックアイランダー議員連盟の議長を務めている。また、現在、保留中の「AB639国際免許証法」の提案者でもある。面談は議会の進行中の事項により短時間で行われたが、同議員は、日本との関係強化の重要性を強調した。
Ben Allen上院議員は、ロサンゼルスを選挙区に持つ上院議員。大学卒業後、短期間だが名古屋に住んだ経験があり、中日ドラゴンズのファンでもある。同議員との会議は時間が短く、深い議論は行うことができなかったが、今後の関係構築に努めていきたいと考えている。
Eleni Kounalakis副知事の参謀およびカリフォルニア州経済促進室のメンバーは、副知事および経済促進知事室長とともに、今年3月に行われた州政府の日本貿易代表団として日本を訪問した。その際、「カリフォルニア州と日本はお互いの提携を望み、地政学的な観点からもこの重要性を認識し、ビジョンを共有している」と述べた。
訪日中、港湾関係者との会議では、環境に配慮した海運を促進するための協定をロサンゼルス港と横浜港、東京港との間で結び、APECや国際会議におけるさらなる機会を模索する意欲を示した。
港湾に関連するトピックでは、前述の通り、ロサンゼルス港が横浜港と東京港とのMOUを締結し、グリーン輸送回廊や港湾管理のベストプラクティスを検討するとともに、物流コンテナの所在データの統一システムへの統合を検討し、日本とのシステム連動による港の混雑や渋滞の回避を目指すと話した。
さらに、日本発の医療、宇宙、AI、バーチャルリアリティーなど多岐にわたるスタートアップ支援や投資誘致について、「日本はグローバル市場への参入やカリフォルニア州への進出においてどの国よりも進んでおり、特にジェトロ(日本貿易振興機構)のような組織によるビジネスサポートは、日本企業が米国市場に新技術を導入するための大きな支援となっている」と賞賛した。州政府からの優遇制度に関しては、「利益を上げる企業には税制の優遇措置が存在するが、利益が見込まれないスタートアップへの支援は難しい」と述べた。
さらに、「カリフォルニア州には外資系企業を対象とした特別な優遇措置はないが、「カリフォルニア競争税額控除(California Competes Tax Credit)」という所得税控除があり、進出を検討する企業に対して適用される。そのほか、研究開発税額控除など、いくつかの分野に対するサポート策が存在する」と述べた。また、カリフォルニア州が高コストなことについて、知事および副知事もこれを理解しており、手頃な価格で住宅を提供するための取り組みを行っていることにも触れた。
最後に、GO-Biz(カリフォルニア州経済開発・商務局)は、「アメリカでの求人の30%がSTEM(科学、技術、工学、数学)の学位を必要としているのに対し、STEMの学位を有するアメリカ人口は11%に過ぎない。移民がビジネスに与える影響を連邦政府のパートナーに強調し続ける予定である」と述べた。
Cal Chamberとの会談では、ニューサム州知事の大統領選出馬の可能性に関連して、今年11月にサンフランシスコで行われるAPEC会議において広範な意見交換が行われた。
環境関連インフラ整備において日本の脱炭素技術を活用することに関しては、環境レビュープロセスの課題が障害になっているとの認識を示した。同時に、運輸インフラの電化に関しては、水素の利用が不可欠であるとの認識も述べた。
カリフォルニア州の政治課題および2024年の総選挙を見据えたイニシアティブに関して、ホームレス問題、住宅不足、薬物問題、メンタルヘルス、高い州税に見合う公共サービスの提供、「PAGA」(Private Attorney General Act – 従業員による雇用主への訴訟をサポートする法案)、「FAST Act」または「FAST Food Recovery Act」などを取り上げた。
最後に、サンフランシスコでのAPEC会議では、政治家の討論だけでなく、CEOセッションや市民セッションも企画されており、サンフランシスコ商工会議所も別途レセプションを計画しているなど、多くの関係者が関与しており、日系企業の参加も奨励されているという話も上がった。
今回の訪問では、例年にないほど多くの議員との面談が実現した。今後、JBA商工部会はこれらの議員との親交を一層深め、JBA会員皆さんの声が州政府にしっかりと届くよう、引き続き努力していく。