2019/7/17
去る7月17日、トーランスのRedac Gateway Hotelにて、「2019年度U.S. Educators to Japan (USEJ)プログラム」の報告会が開催された。当日は同プログラムで訪日した8人のうち7人が出席し、JBA関係者を前に日本での経験や手応えを報告した。
「U.S. Educators to Japan(USEJ)」プログラムは、日系企業の駐在員の子女を受け入れているアメリカ現地校への謝意を表すとともに、実際に現地校の教育関係者を日本に派遣することで日本文化を体験してもらい、その結果を帰国後の教育に生かしてもらうことが目的。44回目を迎えた同プログラムは今年も8名の現地校の教育者を日本に送り出した。参加者たちは6月23日に東京入りした後、各地の学校を訪問し、ホストファミリー先では日本の日常生活を体験するなど充実の12日間を過ごした。
この日行われた報告会で最初に挨拶に立った中島喜一JBA会長は、集まった参加者に「皆さんは日本にどのような印象を持ったでしょうか?」と質問を投げかけた後、「我々JBAは、約60年前に誕生し、約500社の日本の企業によって構成されています。我々の活動は主に3つあり、会員の子女の教育サポート、セミナーや懇親会などの会員に対するサービス、そして日系企業と現地の関係機関との交流です。1つ目の目的である教育サポートの一環である『USEJプログラム』は1975年から実施しています」と、JBAとUSEJプログラムについて紹介した。
続いてプログラムに参加して帰国したばかりの7名の教育者たちが順にスライドを使って成果を発表した。Eric Blinderさん(John Muir Middle School, Burbank)は「素晴らしくオーガナイズされたプログラムでした。小中高と3つの学校を訪問しましたが、違う特徴を持つ学校だったのでそれぞれの訪問が参考になりました。学校だけでなくホストファミリーを通じて日本の文化を学ぶことで、それまで感じていた自分にとっての常識が他の国では必ずしも常識ではないのだということに気付くことができました。また、日本人のおもてなしの心に触れ、感激しました。ありがとうという言葉だけでは、到底感謝の気持ちを伝えきれません」と、日本滞在で別の視点から物事を見ることができるようになったと振り返った。
Yvonne Marinさん(Jefferson Middle School, Torrance)は、日本の小学校の給食に焦点を当てた。「生徒全員で教師も一緒に給食を食べるという習慣は、特筆すべきものだと思います。手作りされた、栄養のバランスが整ったおいしいランチを、生徒と教師が一緒にいただくのです。配膳係の生徒たちは清潔なユニフォームを着ていました。また、生徒たちは配膳の列におとなしく、礼儀正しく並んでいました。給食以外でも、理科の実験室で、生徒が実験する様子を教師が静かに見守っていたのが印象的でした。日本語を話さない私が日本で過ごすことで、英語が分からない状態でアメリカの学校に転校してくる子どもたちの気持ちが少しは理解できたような気がします。今後はカウンセラーとも話し合って、日本に限らず外国から来た子どもたちが新しい環境に順応するための手助けに尽力していきます」。
日本で出会った人々の思いやりの心に何よりも心が動かされたと振り返ったのはVicki Hathさん(Arlington Elementary School, Torrance)だ。「日本人と触れ合ったことで、私自身の心がまるで生まれ変わったように感じています。日本の人々は子どもを思いやり、環境を思いやり、他者との関係性に思いを尽くします。生徒が黄色い帽子をかぶって通学するのは、彼らが事故に遭わないようにというコミュニティの思いやりからです。生徒たちは自分たちで教室の掃除をします。それは自分たちが学ぶ環境への思いやりです。ペーパータオルを使い捨てにする私たちとは違って、彼らはハンカチを持ち歩いています。これもまた母なる自然環境への思いやりが形になったものです」。
続いてMichael Remlandさん(Fern Elementary School, Torrance)の発表のキーワードは「プライスレス(お金で買えない経験)」だった。「帰国子女が学ぶ高校では、生徒たちと英語で話し合いました。さらに広島の宮島や京都、奈良と美しい土地を訪ねて回りました。日本文化を学ぶ機会を私にくださって心からの感謝を申し上げます。これまで学校で日本から来た子どもの家族と何度も会っていましたが、彼らの背景が多少なりとも分かったことで、これからはもっと深く交流できる自信が付きました。そして、このプライスレスな経験を私だけのものにするのではなく、職員全員と共有したいと考えています」。
Kelly Montplaisirさん( University Park Elementary School, Irvine)も「人生を変えるような経験となった」と今回のプログラムを振り返った。「アメリカのようなミー文化ではなく、日本のウィー文化の真髄に触れました。幸運なことに、日本ではアメリカから帰国し日本で暮らす、かつての教え子との再会も果たせました。彼らの近況を聞き、またアメリカから日本に戻った時の逆適応の難しさやプレッシャーについても共有することができ、貴重な機会となりました」。
Freya Remmerさん(University High School, Irvine)の発表のタイトルは「スピーチレス(言葉にならない)」だった。「日本での全ての経験が素晴らし過ぎて、言葉を超越しています。JBAのプログラムは非常にオーガナイズされていて、事前の情報も十分でした。それはJBAの特性というよりも、日本という国の特性かもしれません。私は帰国後に、私の学校でジャパンクラブを立ち上げようと思うようになりました。日本から来た子どもたちのためだけでなく、ここで生まれ育った日本の子どもたちと新しく来た日本人の子どもたちが交流できるクラブにします」。
「共通点と相違点」をテーマにプレゼンテーションを行ったのは、Carrie Eatonさん(Greentree Elementary School, Irvine)。「東京で訪問した高校の生徒たちは制服を着ていて、学校の雰囲気や彼らの様子がアメリカの私立校のそれらと共通するものがあるように感じました。しかし、小学校で経験した給食。あのように手作りで栄養のバランスが取れたものを皆で礼儀正しく食べる習慣は、アメリカの学校では見られません。信じられないほどの衝撃でした。また、出会った人々がどの方も親切で感激しました。私の両親もUSEJプログラムに参加した教師です。親からいつも日本の話を聞かされて育ちました。もし、私の娘たちが将来、教師になるのであれば、絶対にこのプログラムに参加するように勧めたいと思います」。
報告会を欠席したKate Leaveyさん(Jeffrey Trail Middle School, Irvine)からは次のようなエッセーが寄せられた。「私が日本で学んだ言葉、人生にはその瞬間は一度しかない、だから大切に過ごさなければならないという意味の『一期一会』。私は自分の生徒たちに全ての瞬間を慈しみながら過ごしてほしいということを伝えたいと思っています」。
最後に、古谷智教育文化部会長が、次のように締めくくった。「現時点で最もフレッシュな参加者である皆さんが日本で感じたことを、ぜひ、学校や周囲の人々に経験談として伝えてください。来年の2020年は東京オリンピックが開催されるため、USEJプログラムはお休みします。2021年には、パワーアップして再開致します」。