2016/9/23
去る9月23日、トーランスのToyota USA Automobile Museumで、第197回JBAセミナー「経営者が知るべきデジタルマーケティングの基礎(BtoB編)」を開催した。Ys and Partnersのブランドストラテジスト結城彩子氏を講師に招き、現在のデジタル環境を理解し、在米日系企業が取り組むべきデジタルマーケティングの動向と施策について解説した。
[講 師]
結城彩子さん
日本企業の米国参入をマーケティングの面から支援するクリエイティブエージェンシーYs and Partnersシニアバイスプレジデント。ブランドストラテジスト。2002年、パートナーの結城喜宣氏と同社を設立。現在、ニューポートビーチ、東京、横浜の3拠点を構える。
今回のテーマである「デジタルマーケティング」を語るにあたり結城さんは「日本では経営層の63%がデジタルマーケティングへの投資効果に懐疑的であるというAdobe社の2014年の調査がありますが、アメリカではCMO(Chief Marketing Officer)のポジションを設けるなど、マーケティングは経営判断において大きな比重を占めています」と日米の現状から話し始めた。日本では「マーケティングは専門部署に任せている」という経営者も多いが、現在のデジタル社会の環境変化と対応の必要性について理解し、現場のデータを吸い上げることによって、経営に活かすことができるデジタルマーケティングは、現在、最も経営者が知るべきものの一つであると強調した。
現在の米国成人の約8割、2億8,800万人以上がインターネットを利用しており、全世界でGoogleの1日の検索回数は49億回、YouTubeの再生回数は113億回、TwitterのTweet数は約6億3,500万回に及ぶ。特にFacebookやInstagram、Twitterなどのソーシャルメディアの利用は、プライベートな活動に限ったことではなく、既にBtoBビジネスの93%が何らかのソーシャルメディアを運用し、ターゲットであるバイヤーの53%が商品購入のリサーチにソーシャルメディアを利用しているという調査がある。
「従来は商談やカタログでしか得られなかったような情報が公開され、情報過多の環境にあるため、バイヤーは事前の競合比較や商品リサーチにソーシャルメディアを利用し、さらに決定打となる情報を求めています。ソーシャルメディアを通して提供する情報の重要度は増しており、実際に54%以上がソーシャルメディアを通して見込み顧客を獲得しているという数字もあるのです」。
インターネット上での活動に限らず、店頭での買い物に付与されるポイントカードに蓄積された購入履歴・個人情報はビッグデータとして扱われ、その活用もデジタルマーケティングの一環である。具体的な手法として、SEO(Search Engine Optimization)対策、PPC(Pay Per Click)広告、モバイル端末への対応、PR、アフィリエイト、ディスプレイ広告、ソーシャルメディア、Eメール、コンテンツマーケティング、マーケティングオートメーションなどがある。「一つの手法だけではなく、自社の認知度や求める効果、期間と予算に応じていくつかの手法を組み合わせて効果を最大化する必要があります」。
従来の手法が、企業側が一方的に情報を与えるプッシュ型(アウトバウンド型)であったのに対し、これからのマーケティングは、潜在顧客が自分から情報を見つけ出すプル型(インバウンド型)と呼ばれている。従来のアウトバウンド型のマーケティングと、デジタルをはじめとするインバウンド型の比率は反転しつつあり、2016年米国のデジタル広告の予算は、テレビ、ラジオなど従来型のメディアにかける予算を上回った。「現在は過渡期にあり、近い将来、デジタルマーケティングと呼ばれているものが、マーケティングのことを指す日が来るでしょう」と結城さん。
2017年BtoBビジネスに最も貢献するデジタルマーケティングとして、結城さんは4つの施策を挙げた。
(1) コンテンツマーケティング
「自社が持つ調査データや事例、セミナー、ウェビナー(オンラインセミナー)、ブログなどは、潜在顧客にとって有益なコンテンツ提供になります。特に、ブログによる情報発信はウェブサイトのSEOにも効果的であり、企業とサービスの認知度向上に貢献します」と結城さん。ブログを活用しているBtoC企業は、活用していない企業よりも顧客獲得率が88%高く、BtoB企業でも 67% 高いというデータがあるそうだ。
また、これらのコンテンツを持っていることを知らせるために適切なソーシャルメディアを活用すべきだという。例えば、2014年にBtoBマーケティング担当者がよく使ったソーシャルメディアは、 Facebook、LinkedIn、Twitter、ブログであった。これらに加えて、クリエイティブで高品質な写真を持っている企業の場合はInstagram、ジェネレーションZ(現在の13歳〜大学生世代)を対象とした商材の場合はSnapchatを利用する例が増えている。会場では動画撮影カメラGoProの映像を上映し、顧客によって動画が作られ、ソーシャルメディアを通して共有されることによって、製品の認知度を高めていった事例が紹介された。
(2) Eメールマーケティング
絞りこまれた特定のユーザーに直接アプローチすることが可能で、BtoBビジネスにおいて特に新規顧客の獲得に結び付きやすい。「潜在顧客が自分から登録した、つまりインバウンドの手法で収集したメールアドレスを利用することが重要です。データに基づくターゲティングがされてない、業者から購入したようなリストに送ると、企業イメージの低下を招く恐れがあります」。
Eメールを通して有益な情報を継続的に発信することによって、潜在顧客と良好な関係を築くことができ、一つのコミュニティーのような一体感を持つまでに至るという。Eメールの開封率は世界平均41.6%、米国平均40.9%だが、業界によって開封率は異なる。開封率が高いのは、学校・教育関連(58.7%)、保険会社(50.2%)。一方、BtoCの食品、スポーツ、エンタメでは低いという結果が出ているそうだ(Silverpop 2015年調査)。
「Eメールマーケティングは送ることが重要なのではなく、分析することが不可欠です。現在では、どのような顧客が登録しているのか、どのメールを開封したのか、行動履歴を個人単位で追跡・分析できるツールも出ています。彼らの属性や行動履歴を基にグループ分けを行い、適切なコンテンツを配信することで、Eメールは本来の効果を発揮できます」と結城さん。
(3) ビッグデータの解析
「過去の購買履歴や、配送履歴などオンライン、オフラインで蓄積した莫大なデータが、事業戦略を変えるほど重要な指針を与える可能性があります」と結城さん。これらビッグデータの分析は顧客動向のみならず、市場全体の予測を可能にする。業界別では小売や物流において特に活用されているが、BtoBビジネスにおいてもこれらのデータに基づくマーケティングが、確実に売上につながっていく。結城さんが手がけた化粧品会社の事例では、過去30年の店舗での購入履歴をビッグデータとして解析し、得られた定量的な分析結果を基に仮説を立て、顧客へのインタビューを実施して仮説を裏付けた。そして、得られた意見を基にウェブサイトのユーザビリティー改善やモバイル端末への対応を行い、オンラインでの購入売上を160%以上伸ばした。
(4) マーケティングオートメーション
マーケティング担当者が手がけるウェブサイトやEメール、ソーシャルメディアなどの数字はあちらこちらに散らばっている。これらのデータを整理・管理するシステムを導入することにより、一元管理ができ、また、一層ターゲットに特化したマーケティング活動が可能になる。「現在Sales ForceやHubSpotなど数多くのツールが存在していますので、業種や規模に応じて選定すると良いでしょう。78%のマーケティング担当者がシステム導入によって売上向上に貢献したと答えています(Lenskold Group調査)」。
最後に結城さんは、 デジタルマーケティングの現場で感じる日系企業の変化に言及した。「近年デジタルマーケティングのセミナーに参加する企業は、以前のアーリーアダプターから、だんだんと保守的な公官庁や一般企業へと変わってきています。インターネットの普及から20年余り、この10年はBtoB企業にとって重要な商談機会であった展示会なども様変わりし『どこで顧客を見つけていいのかわからない』という声を聞きます。BtoB企業こそ社会環境の変化を理解し、早急にデジタルマーケティングの施策に取り組んでいくこと、今後の事業戦略の中に取り入れていくことが大切です」。
参加者の声
Imuraya USA, Inc.の中嶋さん
「マーケティングに注力するにあたって、今後どこに視点を置いて活動を行っていくべきか、的を絞るべきかが見えてきました」
Kawasaki Motors Corp., U.S.Aの鶴野さん
「BtoCにおいてはすでにデジタルマーケティングを進めてきましたが、従来型との予算配分やほかの業界の動向など、大変勉強になりました」