JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2015/10/30

第188回 JBAビジネスセミナー「人事・労務問題 ~実際に起きている問題・課題点とその対応策~」

去る10月30日、トーランスのToyota USA Automobile Museumで、第188回JBAビジネスセミナーを開催した。当日は、企業の人事労務管理全般をサポートするHRM Partners, Inc.の三ツ木良太さんが講演。参加者らから事前に質問を受け付け、それに答える実践的なセミナーとなった。集まった日系企業人らは、日々直面する切実な人事労務問題の対応策を熱心に聴講していた。

三ツ木良太さん[講師]

三ツ木良太さん
HRM Partners, Inc. パートナー。イリノイ州シカゴ生まれ。学習院大学卒業後、日本電信電話株式会社(NTT)、コンサルティング会社を経て、2009年よりHRM Partnersに在籍。日系紙『Weekly Biz』にコラムを連載中。

従業員への減給、弁償… 会社側の実践的な対応策とは

セミナーの導入として、講師の三ツ木良太さんは人事労務の問題に対処する際の留意点を説明した。それによると、まず重要なことは問題・課題へのアプローチのステップを確立しておくことであるとした。例えば、何らかの問題があった場合には、その問題が法的にどうかを検証し、法と照らし合わせても判断できない場合は過去の事例や判例、慣習などから検証する必要があるとした。そのためにも日頃から信頼できる情報源を持つ必要があると述べた。

本題では、参加者から事前に集めた質問に対して回答。当日は11個の質問に対してさまざまな具体例などを交えて回答したが、ここでは10個を紹介する。

【質問1】従業員による社用車の個人使用は管理すべきか?
回答:法的に規定されているわけではないが、管理するのが望ましい。理由としては、従業員が私用で使うことでかかるガソリン代等のコストのコントロール、従業員が事故を起こした際の責任範囲の明確化等のLiabilityのコントロールが重要だからである。これらは就業規則(従業員ハンドブック)などでルールを明確化し、利用の際は使用日時、行き先、マイレージなどを正確に記録しておくことが望ましい。

【質問2】従業員が会社の所有物を破損した場合、従業員に弁償させられるか?
回答:基本的には一部の例外を除いて弁償させることはできない。一部の例外とは、故意、あるいは明らかな不注意による破損等。しかし、社員の収入が最低賃金を下回るような請求の仕方は禁止されており、弁償金額が多額の場合は適切な金額で分割させるなどの措置が必要となる。

【質問3】(有給休暇が与えられていない)試用期間中のExempt(固定給で就業し残業代が出ない)従業員が休んだ場合、減給できるか?
回答:次のケースでは可能。(1) 病気やケガ以外の個人的理由の場合、(2) Sick Leave PolicyがBona Fide Planに従っていることを条件として、病気やケガで休む場合、(3) 週途中の入社・退職の場合、(4) 懲戒免職や安全規定違反があった場合。ただし減給は1日単位でしか認められておらず、従業員が数時間でも働いた場合には減給は不可。(5) 陪審員や証人などで出廷した場合はお金が支給されることがあるが、その場合は支給金額を差し引いて減給する。

【質問4】Non-Exempt従業員の中にタイムカードがない者がいるが、社内記録は取ってある。これで法的に問題ないか?
回答:基本的には問題なし。法律では、雇用主にNon-Exempt従業員の勤務時間の管理・記録を義務付けているが、それが従業員も把握できるように記録されていればタイムカードである必要はない。重要なのは記録に対して会社と従業員で共通認識があること。ただし、Non-Exempt従業員全員に対して同じ条件で管理・記録すべき。

【質問5】在宅勤務など、フレキシブルな働き方を導入する際の留意点は?
回答:(1) 導入目的、(2) 職責・職務への適合性、(3) コスト、(4) セキュリティー、(5) 安全面、(6) 勤務時間の管理方法、(7) パフォーマンスの管理方法、(8) 属人的な対応にならないか、(9) 対応に一貫性はあるか、などに留意する。

 

従業員への対応記録は文書化しておくことが重要

【質問6】パフォーマンスが低い従業員への対応は?(セミナーでは状況の詳細が示されたが、ここでは割愛する)
回答:回答の前に参加者同士が話し合い発表。次のような意見が出た。
– 仕事内容やその成果を書面で明確化し、会社と従業員で共通の認識を持つ。
– 会社は従業員と共に目標を明確に設定し、成果の報告を義務付ける。
– パフォーマンスレビューで評価を明確にし、次の目標を設定。かつ書面化する。

低パフォーマンス従業員に対応する際、気を付けることは次の通り。
(1) 会社が従業員に求める業務の要求水準が従業員に明確に伝わっているかどうか。
(2) ジョブ・ディスクリプションはあるか。あるなら業務遂行に必要な知識やスキルなどが明記されているかどうかを含めて最新の内容に更新されているか。これにより何が不足していてパフォーマンスが低いのかが分かる。
(3) 指導する時点での従業員のレベルを正しく把握し、それに基づいて指導しているかどうか。
(4) 従業員のパフォーマンスが会社の要求水準に足りていない事実を書面で明確化し、その水準に達するための改善計画を立案して書面化し、指導の記録を残す。
(5) 評価項目や基準を明確にした「業績評価制度」を導入する。

従業員のパフォーマンス改善のためのこうした会社側の努力は、該当する従業員を解雇したことで起こり得るクレームに対応するためにも重要となる。従って、改善計画や指導履歴は全て文書化して残しておくことが非常に重要である。

【質問7】日本からの出張者や着任したての駐在員が、現地社員に個人的な質問をしたり性的な冗談を言ったりする。また、駐在員の上司が駐在員の部下を怒鳴るため社内の雰囲気が悪い。これらの対応策を教えてほしい。
回答:まずは「差別」と「ハラスメント」の定義を正しく知る必要がある。「差別」とは、人事上のあらゆる決定がProtected Classの特色を基に行われることで、Protected Classとは人種、国籍、肌の色、宗教、性別など法律で保護されるべきクラスのことである。

ハラスメントとは、(1) 被害者に職務上マイナスの影響を与える行為であり、(2) 被害者に攻撃的であったり被害者が不快に感じたりする行為であり、(3)それが繰り返し行われ、(4) Protected Classの特色を基に行われることである。ちなみに、アメリカでは日本で言うところの(上司が部下に行う)パワーハラスメントという言葉はない。なぜなら「部下」というProtected Classは存在しないからである。

さて、差別やハラスメントがない職場作りや良好な職場環境を維持するために会社がすべきことは以下の通り。
(1) 就業規則を整備し、ハラスメントや差別を禁止する明確な規程を設ける。
(2) 全従業員に差別やハラスメントの知識を習得させるための研修を受けさせる。
(3) 管理職には定期的に研修を受けさせる。
(4) 日ごろから徹底した教育を遂行する。
(5) 差別やハラスメントが起こった際の申告手順などを全従業員に教える。
(6) 従業員が相談しやすいように、第三者によるホットラインサービスを活用する。

【質問8】社員が失業保険を申請した場合、(1) 社員が失業保険を申請できる場合とできない場合とは?、(2) 会社側の対応の流れと留意点は?、(3) 申請期間に対するBase Periodって何?、(4) 保険料に影響する、しない?
回答:(1) 基本的に申請は可能だが、認められるためには以下の条件(一部)が必要となる。
– Base Period(後述)中に十分な収入がある。
– 過失や不正が退職の原因ではない。
– 身体的に仕事ができる。
– 早期の就職を望み、就職活動を実施している。
(2) 元従業員が失業保険を申請した後、失業保険を管理するEDD(Employment Development Department)が会社にNoticeを郵送。会社はそれに必要事項を記入して返送する。ただし、真実のみを記載すること。
(3) 申請者への給付金額を決定するためにEDDが参考にする期間のこと。通常は申請開始日の5四半期前から連続する4四半期。例えば申請が2015年10月なら、14年の7月から15年の6月がBase Periodとなる。
(4) 基本的には影響する。

【質問9】最も公平で従業員に納得してもらえる医療保険の従業員負担の決定法とは?
回答:まず重要なことは、会社側が医療保険の現状と今後についての理解を深め、それを従業員に伝える努力をすることである。また、報酬は医療保険のみで考えるのではなく、給与や保険以外のベネフィットも含めて総合的に考えるよう従業員に働きかける。従業員負担額を決定する際は信用できる市場調査データを基にする。そうすることで社員の納得性が高まる。

【質問10】減給、降格の方法について教えてほしい。
回答:減給や降格をしてはいけないという規定はない。しかし慣習的には、パフォーマンスの悪い従業員への対応としては減給・降格ではなく解雇するケースも多い。理由は、降格によるクレームや社内の雰囲気の悪化などのリスクが想定されるためである。職務や職責の変更に合わせて減給や降格を検討することも考えられるが、それがビジネス上の正当な理由として説明できるか、想定されるクレームは最小限に抑えられているかは事前に検証すべき。

最新、かつ実践的な人事労務管理のセミナーとあって会場は満員となった。

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