2025/3/4
去る1月26日(日)、教育文化部会主催による「親から子へ伝える金融の基礎知識と将来設計」をオンラインで開催した。
〈講師プロフィール〉
笠原真香さん
ファイナンシャルエデュケーター
ハリウッド女優としての活動や、エンターテインメント業界での仕事を経て、2016年にJiji Press America Ltd., L.A. Bureauに入社。17年にRevolution Financial Managementを立ち上げ、現在はファイナンシャルエデュケーターとして金融に関するアドバイスをするかたわら、会社立ち上げサポート、YouTubeチャンネル運営、翻訳業務などにも携わる。
冒頭で笠原さんは、「金融の基礎知識と将来設計について、皆さんが知っている情報もあるかもしれませんが、あらためて聞いていただきたいですし、知らないことがあれば学んでいただくことで、お子さんにも伝えることができます。そのように頭の片隅に置きながらこのセミナーを聞いていただきたいと思います」と、セミナーの意図を説明した。
続いて、海外に住む日本人の数はアメリカが最も多く約49万人、中でもロサンゼルスには約6万人が住んでいること、またカリフォルニア州の平均年収が約7万3000ドルで、これはアメリカ50州で3位にあたることを示し、「7万3000ドルは現在の円に換算すると1000万円以上。日本の方から見たら生活は余裕なのでは?と思うかもしれませんが、実際にはなかなか苦しい。これは、日本の平均年収約458万円に対してアメリカ全体の平均年収を見ても約2倍である一方(下記資料参照)、コストも2倍かかるためで、結局、生活水準は日本とアメリカでほぼ同等だと思っています。アメリカで働くと収入はいいけれどコストもかかってくるわけです。そのあたりもお子さんと話しながら、どのように賢くお金を運用していくのか、どこでどのようにお金を稼いでいくのかというところも含めて、将来設計を作っていくことをお勧めします」とアドバイスした。
また、笠原さんは為替に関しても解説。笠原さんの家庭を例に出し、「日常生活からお金や経済について話題に出し、将来子どもの理解が進んだ時に、より詳しく説明することが重要」と説いた。また、現在の為替レートが1ドル=155円であること、過去12年で最安の円安が昨年の160円、最高の円高は2011年の76円であったことを挙げ、円安・円高についてもまずは親が仕組みを理解することで子どもにも分かりやすく説明できることを強調した。
次に笠原さんは、資産の運用や将来の教育資金の貯め方に関する三つのポイントについて解説した。一つ目は利率について。アインシュタインの発見した「72の法則」を紹介し、「これは、『72÷利率=元本を2倍にするために必要な年数』を割り出す計算式です。例えば、29歳の時に1万ドルを1%の利率が付く銀行に預けると、2万ドルになるのはなんと101歳! 日本の金利は0.125%ですから、自分の生きている間には2倍にはならないということですね。この計算式は負債にも当てはめられます。次に4%だと、72÷4=18年。この場合、29歳でもらった1万ドルが47歳で2万ドル、65歳で4万ドルになります。これでリタイアできるかというと、難しいですね。さらに、ここにインフレ(インフレーション=物価上昇率)がかかってくる。アメリカでは過去20~30年平均で毎年2.3~3%のインフレが起きています。3%のインフレ率の下で4%の利率のところにお金を置いていると、実質1%ずつしか増えていかないのです。この状態で何十年お金を運用しても、29歳の時の1万ドルと65歳の時の4万ドル、実はお金の価値はほぼ変わっていないということ。インフレがあるためです。インフレは恐ろしいのです」とし、できるだけ利率の高い環境にお金を置くことの重要さを強調。また、こういった金融教育は学校ではされておらず、各家庭で教育することの重要さを説いた。
二つ目に、金融のリスク管理について、Fixed(固定)、市場直接投資、インデックスの3種類があることを解説。「一つ目のFixed(固定)の場合、市場がアップダウンしても金利が変わらない。安定していますが、インフレにはキャッチアップできない可能性がある。二つ目の株式や債券のような市場に直接投資するものは、無制限にお金が入る可能性もあれば、逆に失う可能性もあります。08年のリーマンショックの際は、マイナス48%になったと言われています。それが起こる可能性があるのも市場への直接投資です。もちろん、市場が12%、25%、36%と上がれば、その分お金が入ってきます。三つ目はインデックス投資。株式市場などの動向に連動して資産価値が変動する投資手法で、証券会社や保険会社を通じて購入します。投資の神様と言われるウォーレン・バフェット氏がお勧めしているのもこのインデックス投資です」。
そして最後に、ポイントの三つ目としてアメリカの税金、Taxable、Tax Deferred、Tax Exemptの3種類について解説した。「一つ目のTaxableは、毎年税金を払わなければいけないものです。銀行口座、CD(Certificate of Deposit)、定期預金、株や仮想通貨などがあり、利益に対して毎年税金が発生します。一方、これはいつでも引き落とせるカテゴリーなので、ある程度のお金は常にここに置いておく必要があります。二つ目のTax Deferredは401(k)、確定拠出型年金、403b、IRAなどで、税引き前のお金をアカウントに入れるので、この時点では税金が引かれず、将来引き落とす時に税金が発生します。ここもTaxableと同様ある程度の金額を入れておくといいですが、全てここに入れることはプロとしてはお勧めしません。そして三つ目がTax Exempt。これは税金が引かれた後に将来のために貯めておくもので、引き下ろす際には税金がかからないものです。Roth IRA、Roth 401(k)、IUL(Indexed Universal Life insurance=インデックスユニバーサル生命保険)などが入ります。必要なTaxableとTax Deferredを引いた残りはここに入れておくのがおすすめです。この3種類の金融商品には皆さん誰でもアクセスできるのですが、知らない方も多い。きちんと分配することでリスクも回避していけるということを知っておいていただきたいです」と話し、各々の家庭の状況に合った資金の振り分けを促した。
金融と時間の関係について「時間を味方につけるのか、あるいは敵に回すのかは全てあなた次第」として、子どものための投資について解説した。「元本1万3000ドルで、お子さんが生まれた日に投資を始めて、年平均6.5%、67年間運用すると、100万ドルに達します。一方、お子さんが18歳の時から始めて同じく年平均6.5%で、67歳までの49年運用すると約30万ドル。18年の違いでこれだけの差になるのです。時間を有効活用するためにも、できるだけお子さんが若いうちから投資を始めてくださいということです。リスクはきちんと管理しつつ、金利はできるだけ高いところにお金を入れておきましょう」とアドバイス。
また、アメリカの大学の学費の現状と、年間平均8%のペースで上昇している状況について、「コミュニティーカレッジは年間1万2555~1万5555ドル、州立4年制大学では年間2万6900~3万1900ドル、私立4年制大学では年間4万1900~5万6900ドル。これは今の学費で、年間8%ずつ上がっていますから、皆さんのお子さんが大学に入る頃にはどのくらいになるか、計算してみてください」と、注意を促した。そして大学の学費拠出方法はFederal Grants、Scholarships、College Fund、Student Loans、家庭からの支払いの五つに分類できるとし、特にCollege Fundには529 College Savings Plan、The Coverdell Education; Saving Account、UGMA/UTMA、Index Universal Life Policiesの四つが含まれること、それぞれに使用用途の制限があることなどを解説した。
セミナーのまとめとして、笠原さんは今後のアドバイスを語った。「①現状を把握すること、収支を再確認すること。頭で計算すると誤差が出やすいのでいったん書き留めてみる。②貯蓄、学費に回すお金がいくらあるか確認する。③子どもが大学に入るまで、または卒業するまで何年あるかを確認する。④どの貯蓄方法にするのかを選択。場合によってはプロに相談して設定してもらう。⑤足りない場合は足りない部分をどう補うかを確認し、その分野のプロに相談する」とし、金融のプロは医師と同じく、状況(症状)を把握して、一番適した方法(薬)を提案することができると話した。
最後に、「他人に収入を開示したり、お金に関してオープンにしたりすることは怖い部分もあると思います。私も若い頃はそうでした。ただ、今思えばもっと賢くできたかなという思いもあります。最新の情報を持っているのはプロですから、プロに聞くことは悪いことではありません。金融のプロにも税理士やファイナンシャルプランナーなどがいますので、いろいろなところで話を聞いてみて、最終的に誰に相談するのがいいのか、自分で選択して決めていっていただきたい。皆さんそれぞれの家庭の事情があると思いますが、頑張っていただきたいと思います」と話し、セミナーを締めくくった。