2022/3/29
去る2月23日、日本企業がグローバルな広報活動で成功を収めるための戦略について解説するビジネスセミナーを、クリエイティブディレクターの佐野さんを迎えてオンラインで開催した。
[講 師]
佐野 尚吾さん
Hive Los Angeles / Hive Tokyo代表取締役兼クリエティブディレクター。
立教大学文学部卒。旧旭通信社(現ADK)にコピーライター/CMプランナーとして入社。2004年、LAのクリエイティブブティックC2Kにクリエティブディレクターとして入社。トヨタ自動車、キヤノンアジアパシフィック、MS&ADホールディングスなどのグローバルクリエイティブ制作に従事。18年、Hive Los Angeles / Hive Tokyoを設立。
最初に佐野さんは、日本企業にとっていかにグローバルな広報活動が必要かを説明した。「日本企業は国内市場の人口減少に伴い、海外市場へとその企業成功を加速しています。海外の売り上げの伸びが成長の鍵になっているため、グローバル化が強く望まれているのです。ただし、グローバルなコンテンツを作成する必要があります。これまでは国別にコンテンツを作るのが普通でしたが、一つのコンテンツで共有できればコスト削減につながります」。
グローバルなコンテンツを作成する上で留意すべきは、さまざまな壁を越えることだと佐野さんは強調した。そこで、それぞれの壁の克服方法について、佐野さんが過去に手がけたプロジェクトを紹介しながら解説が行われた。
「全世界統一ブランドの小型カメラのコンテンツを7言語で作りました。そこで、プロジェクトチームをマルチナショナルにして、主要スタッフはインハウスで構成し、品質を担保しました。小型で手持ち可能なカメラという製品の特性上、アウトドアでのワイルドライフを撮影するというコンテンツで、ロケ地はアメリカに決定。実機を動画にも静止画にも使用して、カメラマンは動画も静止画も撮れるカメラマンをアサインしました。多国籍なクリエイティブチームでどの言語でも対応するストーリーフローを作ったこと、チームの人数をできるだけ少なくして少数精鋭でコミュニケーションの質を上げることに留意しました」。
「商品は小型ビデオカメラで、訴求対象は子どもの成長を記録に残したいという富裕層のファミリー。東南アジア諸国のエリアで展開するコンテンツだったので、モデルにはコンチネンタルルックの人材を選定。東南アジアは宗教的に複雑なエリアで、仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンズー教などの信者がいるため、企画チームに宗教の専門家を入れ、宗教上のタブーを回避しました」。
「近年は環境保護、企業統治、多様性などの企業文化をアピールするグローバル広報の重要性が高まっています。MS&ADは、社員の半分以上が女性ですが、経営陣の女性比率は低いという問題があり、日本企業らしい状況と言えました。そこで、まず遅れている現状を話し合い、D&Iは日本が圧倒的に遅れていることを理解し、その上で前向きな姿勢を示すというメッセージを送りました」。
「本格的なプラグイン・ハイブリッド車『プリウス・プライム』の発売に当たり、プリウスを凌駕する先進的イメージを表現するため、トップクラスのCGを使用したいと希望しましたが、見積もりを取ったCGハウスの5社のうち4社は予算の倍でした。1社は他社の半分の見積もり額でしたが、演出力に物足りない部分がありました。そこで、CG演出部分を私がやることで、予算を削減しました。自動車は機能価値が求められる商品で、動画の品質が商品の品質に直結します。動画の品質に妥協しないことが重要です」。
そして、参加者からの「グローバルコンテンツ制作に重要なポイントとは?」との質問に、佐野さんは「多国籍のチームで取り組んだ上で、いろいろな視点でチェックしていくことです。チームに英語のネイティブは必ず入れてください。また、ストーリーフローを意識してどの国の人が見ても違和感がないものを作り上げてください」と回答して、セミナーを終了した。