JBA 南カリフォルニア日系企業協会 - Japan Business Association of Southern California

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2016/5/6

第194回 JBAビジネスセミナー「円ドルを中心とした 為替相場見通し」

去る5月6日、トーランスのToyota USA Automobile Museumで、第194回JBAビジネスセミナー「円ドルを中心とした為替相場見通し」を開催した。当日はJPモルガン・チェース銀行の佐々木融さんが講演。具体的な数値を列挙しながら今後の為替相場を詳細に解説した。

佐々木 融さん[講師]

佐々木 融さん
JPモルガン・チェース銀行東京支店の市場調査本部長兼マネージング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、札幌支店を経て国際局為替課に配属、市場調査、分析、為替市場介入などを担当。2000年ニューヨーク事務所に配属、外国為替市場を含めたNY市場全般の情報収集・調査・分析を担当。2003年にJPモルガン・チェース銀行入行。

日米の金利と為替レート

佐々木さんはまず、世界の経済成長について説明した。それによると、2015年第3四半期の世界の経済成長率は2.8%である。その内訳は先進国が1.9%、新興国が3.8%と新興国は先進国の2倍の成長率を示しているものの、それまでの新興国の経済成長率が約5%であったことを考えると、世界経済を牽引したのは先進国だったとした。それが第4四半期になると、世界経済成長率は1.8%、先進国の成長率は1.2%と鈍化。特に日本は1.4%からマイナス1.1%に落ち込んだ。16年の第1四半期の成長率は日本が0%、アメリカが0.5%と依然弱く、こうした先進国経済のスローダウンがマーケットの不安を招く事態となった。

しかし佐々木さんは、16年第2四半期では世界の成長率は3.0%まで回復すると予想する。その原因は米・中経済の回復にあるとし、アメリカ経済の回復はドル安に起因していると語った。

金利について、J.P.モルガンのエコノミストは今年7月に日本銀行が利下げに踏み切ると予想している。しかし、佐々木さんはそうした予想に懐疑的で「利下げはないだろう」とみている。その理由は、(1)マイナス金利の評判が世界中で悪いこと、(2)世界的な流れとして金融政策から財政政策に移行していることを挙げた。アメリカの金利については、7月と12月にそれぞれ0.75%と1%まで利上げをすると予想した。

アメリカと世界の経済動向を考える上で重要なのが、ドル相場である。佐々木さんによると、通常ドルが下落基調に入ると、(1)米国企業の企業収益が増加し株価が上昇する、(2)エネルギー価格が上昇する(特に原油価格はドル相場に反比例する)、(3)ブラジル、ロシア、南アフリカなどの新興国通貨(エマージング通貨)が上昇する、という。

今後のドル円相場については、16年第2四半期が109円、第3四半期が106円、第4四半期が103円、17年第1四半期が102円と予想。ドル高のピークは過ぎて、円安もすでに終焉していると考えている。この「ドル安・円高」により、対円ドル相場も下落すると見ている。


アベノミクス下の経済成長

12年11月のアベノミクス開始以降、第1の矢(金融政策)、第2の矢(財政政策)は奏功したが、第3の矢(成長戦略)は成果を十分に上げていないとする佐々木さん。ただ、それなりに進んでいるアベノミクス下で実施された成長戦略について次のように紹介した。

(1) コーポレートガバナンス/企業と投資家の対話促進
(2) 法人税の引き下げ
(3) 電力市場の規制緩和と自由化
(4) 女性の労働参加支援
(5) 高度な知識や技術を持つ外国人の在留要件緩和
(6) 農業改革
(7) 中国、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどを対象にビザ発給要件を緩和
(8) 130以上の国家戦略特別区域計画を認定

この中で佐々木さんは(7)に注目。これにより訪日外国人数は14年、15年で倍増し、2000万人に到達する勢いがあるとした。今後の政府目標は4000万人。日本は観光資源が豊富であることから、佐々木さんはこの数値は実現可能と見ている。ちなみに、15年に訪日外国人が使ったお金は3.5兆円。実に日本の国内消費の1%にもおよぶそうだ。

日本政府と日銀は民間企業に給与の引き上げを求めている。それにより名目賃金は伸びたものの、その伸び率はインフレ率と同率であるため、実質賃金の伸び率はほぼ0%。これについて佐々木さんは、「日本では賃金が上がっていかないでしょう。なぜなら日本ではいまだに終身雇用制が続いているため、日本の賃金は固定費であり、一度賃金を上げると永遠にそれが続くため、企業は一時的利益を賃金に充てられないのです」と説明した。


マイナス金利とヘリコプターマネー

話題のマイナス金利についての解説に入った。一般の銀行は、顧客から預かった預金の一部を日本銀行に預け利息を得ている。しかしその利息の一部がマイナスになる。これがマイナス金利政策で、個人が保有する預金にマイナスの金利が適応されるのではないと説明した。現在、日本、EU、スイス、スウェーデンなどがマイナス金利を実施しているが、どの国の銀行株も下落しているという。つまりマイナス金利政策は銀行収益を直撃し、それにより銀行の金融仲介機能が弱まり、リスクマネー(株式や企業買収など高いリスクを伴いながら、高い運用収益が求められる投資へ投入される資金)が市場に流れなくなるという。こうしたことから佐々木さんは、マイナス金利は経済にとって良いとは言えないと説明した。

日本の国債の金利は、マイナス金利の導入により下落した。30年ものが1.2%、40年ものが1.3%だったのが、20年、30年、40年共に0.3%となった。10年ものにいたってはマイナス0.1%になるなど、マイナス金利実施による日本経済の冷え込みが顕著となっている。

さて、今年2月のG20以降、前述のように金融政策から財政政策への移行が世界的なトレンドとなっている。そこで、今後日本で財政支出拡大を考える際に注視すべき「ヘリコプターマネー」について、佐々木さんはこう説明した。
「これまで日銀は一般の銀行から国債を買い取り、その代金をキャッシュで支払うという量的緩和を実施してきました。これは銀行が保有している国債を現金に換えるというだけです。結果的に銀行間でお金の貸し借りを行っている市場では資金が溢れ、金利が下がったりしますが、銀行も一般市民もお金をもらっているわけではありません。これに対し、政府はクーポンや補助金などの名目で直接国民に資金を提供するため、これまでも特別に補正予算を組んだり財政支出を拡大したりしてきました。しかし、こうした財政支出は国債を大量に発行することになるため、大規模な財政支出を実施すると、長期金利は上昇、政府は自分で自分の首を絞める結果となってしまいます。しかし現在は日本国債の90%を日銀が所有、つまり日銀が日本国債のほとんどを買い取っているため、いくら国債を発行してもマーケットは反応しなくなりました。すると政府は国債の大量発行をためらわなくなり、いくらでも国債を発行できる=いくらでも財政支出できる状態になるのです。これをヘリコプターマネーといいます」(佐々木さん)。
もし日本でヘリコプターマネーが実施されると、お金の価値が下がり(=物の価格が上がり)インフレになるとする佐々木さん。同時に円相場は、ヘリコプターマネーが大量になるほど長期的な円安になると見ている。


短期的な円相場

アベノミクス以降14年までは、日本円は世界の通貨に対して弱かった。しかし15年には米ドルに次いで世界で2番目に強い通貨となった。15年のドル円相場は1ドル115~125円で、120円前後で動かなかったことから世間的には「弱い日本円」のイメージが強かった。しかしドル円相場が動かなかったのは、実は日本円が強くなっていたからだった。佐々木さんはその原因を次の3つに分類した。

(1) 12年から14年における円安の主因は、日本の貿易収支が12年は4.3兆円の赤字、13年は8.8兆円の赤字、14年は赤字が10.4兆と大幅に悪化したことだった。それが15年になって赤字が0.6兆円まで縮小。経常黒字も14年の2.6兆円から15年は16.6兆円に拡大し、これにより円が強くなった。それ以降も黒字が拡大しているため、引き続き円高に向かう。
(2) 円安基調が終わりに向かっているとの判断から、日本企業が海外で留保している50兆円とも言われる利益を円に換金し日本に戻す流れが生まれた。これが円買いをもたらし円高を誘引。この流れが今後も加速する。
(3) 日本国内の投資家が14年8月以降の過去20カ月に外国株を買い越した額は20兆円。また、同時期の為替ヘッジなしの外国債券投資は総額6.8兆円。つまり、日本の投資家は26.8兆円の円を売った。しかし、これで得た株と債券は現在の円高基調により含み損である。26.8兆円の半分は年金基金でそのまま放置されるだろうが、残り半分は個人投資家や金融機関が損切りのため円を買い戻そうとし、円高を誘導する。

「貿易赤字の拡大と共に円安が進み、日本企業も投資家も円を売って外貨を買う、あるいは稼いだ外貨をそのままにしておいたのが、貿易収支の改善による円買い圧力の強まりから企業や投資家は円安の終焉に気づき、円買いに走っている構図です」と佐々木さん。こうしたトレンドは今後も続くと見ている。

参加者の声

パターソンさんCBRE, Inc.のパターソンさん
「最近商業不動産を扱う業務に就き、いろいろ学び始めていたところでした。自分だけではよく分からなかった部分も、今日のお話でとても理解が深まりました」


深澤さん静岡銀行ロサンゼルス支店の深澤さん
「ドル円マーケットに関する知識を深めると共に、自分なりの考えを構築できました。具体的な数字がたくさん出てきたので、実際の世界の動きがよく分かりました」

為替のエキスパートが日米を含む世界経済を詳細に解説するとあって、会場には業種を問わず多くの参加者が訪れた。

為替のエキスパートが日米を含む世界経済を詳細に解説するとあって、
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