去る6月13日、ホリデーイン・トーランスにて第119回ビジネスセミナーを開催した。「物流革命」と
いう言葉が使われ始めて久しいが、実際にSupply Chainの合理化や最適化などでサービスを向上させ
た会社は少ないという。そこで今回は、国立九州工業大学の特認教授、滝澤千之さんが、物流革命の誤解
を解きながら、あるべき実践方法を解説した。

『在庫は経費』の発想を持ってください」と語る滝澤教授
今日は、「物流をエンジニアリン
グする」という観点からお話いた
します。現在ほとんどの企業が、
物流におけるコスト削減や処理の
ミスが発生しないような高精度業
務を行うことで顧客満足度を上げ
ようと躍起になっていますが、実
はそんなにうまく機能していませ
ん。理由は簡単です。どれだけ頑
張っても、その実行の過程での間
違いが減らないからなのです。
その主たる原因は、物流の世界
に「経験主義」や「前例主義」で
物事を考える傾向があるためで、
自分が率先してやったことで失敗
したくないものだから、誰かが以
前やったことを真似て成果を出そ
うとしてしまい、そこからミスが
発生するのです。この風潮がある
限り、間違いの発生は減らない
し、物流の改革などという次元と
はほど遠い事態を招いています。
「Garbage In」「Garbage Out」と
いう言葉があります。一生懸命や
っても、間違った方法でやってい
たら間違った結果しか生まれてこ
ないということです。ですから、「正
しいことを正しい方法でやる」。こ
れが重要なのです。
さて、物流で1番大切なことは、
在庫をできる限り持たないという
ことです。この発想に基づいて業
務ができているかが、円滑な物流
システムを構築するための1番の
ポイントとなります。
セブンイレブン・ジャパンの鈴
木会長が以前、「Demand Chain が
重要」とおっしゃっていました。
これは、「消費者にフォーカスし
て物事を考える」という意味だと
思いますが、逆に言うと、作る側
や売る側の論理に立って商品が企
画された時点で、もうそれ以上の
発展はないということでもありま
す。それでは消費者の立場に立っ
た対応とは、一体どんなものなの
でしょうか?
それは、企画された商品に、@
新規性、A機能性、B価格、C便
利性、D納期、等が消費者の心理
と合致しているかということであ
り、そのことがスムーズに実現で
きるシステムエンジニアリングが
できているかということだと思い
ます。
例えば「高精度物流の実現」に
関してですが、ひと昔前のアメリ
カでは、「日本では100%正確な納
品が求められる」と、私が発言す
ると、アメリカの方は「それはク
レイジーだ。間違わないコストよ
り、間違った時のコストの方が断
然安いじゃないか」とおっしゃっ
たものです。しかし、最近は違い
ます。アメリカでも間違いは許さ
れないという姿勢へと変化し、米
企業のほとんどが、「間違わずに届
けたい」と言っています。
さらに「在庫の圧縮」とは、も
ちろん無駄な在庫をなくすという
ことです。「在庫は経費」という認
識を持てば、経費を圧縮するため
に、在庫のマネージメントがどれ
ほど重要かが理解できると思いま
す。
また、「トレーサビリティー」の
機能を例に取れば、商品や人の移
動を追跡することです。消費者は、
注文品が今どこで、いつ配達され
るのかを知りたがります。モノの
配達が早ければ早いほど良しとし
ますから、迅速に届くために追跡
することが必要になるのです。
現代は消費者にとって「非代替
の原則」が通用する時代となって
います。昔は食べられれば何でも
良かった(何でも買った)時代で
したが、今では自分の好きな物が
なければ要らない(買わない)、欲
しい商品がなければお店はないの
と同じ、という時代なのです。で
すから、消費者が100%満足でき
る供給ができるかどうかが物流の
成功を握る鍵となります。これら
のことを前提として、トータル的
にコスト削減を実現する必要があ
ります。「部分最適」から「全体最
適」への移行ということですね。
ちなみに、「在庫の量×時間= コ
スト」です。どんなに安い商品で
も、それが大量でスペースをたく
さん使い、流通に時間がかかれば、
実際は高い物になっています。で
すから、在庫は回転率が高い方が
いい。そして100%の精度で、100
%の供給率で行くべきなのです。
コストを削減するためには、新
しいテクノロジーが必要となりま
す。また、そこに投資することが、
コスト削減のための有効手段とも
なります。しかし実際は、価値と
価格は消費者が決めます。生産者
が1000 円と言っても、消費者が
200 円の価値しかないと判断すれ
ば、マーケットでは200 円です。
反対に300 円の商品でも、付加価
値があり消費者が認めれば、1000
円になることがあります。消費者
がモノの価値を決めるという現実
を踏まえ、高付加価値性、非競合
性の存在の有無が企業収益を決定
するのです。
さて、こうした時に製造業者は、
無駄のない生産を考えなければな
りません。原材料や部品調達の合
理性や生産工程におけるボトルネ
ック管理、あるいは市場と同期し
た生産体系の実現などを考える必
要があります。
それらを実現する上で重要なの
が、「機能に重複がないか」です。
生産から流通までの過程には、さ
まざまな機能が存在します。な
かでも、在庫の機能、調達や配送
の機能、情報処理の機能などは、
異なった過程で重複して存在しま
す。このような機能の重複を、ど
うやって最小限に抑えるかがコス
ト削減のポイントになるのです。
最近では、大手の流通業者も機能
の重複を問題視し、調達から物流
に至るまで、根本的に変えたいと
いう企業が増えてきました。
これを可能にする技術が、IE
(Industrial Engineering)の概念
です。ここでいうIE とは、「ワー
クシステムのオプティマイゼーシ
ョンを志向するエンジニアリング
アプローチ」という意味です。ト
ータルデザインにこのIE の概念を
取り入れ、物流過程で発生するコ
ストの削減を目指すのです。
アメリカのIE 協会では、IE とは
「人」「設備」「物」「情報」を統合
化し、そこに工学的分析や設計の
原理・手法を融合させ、さらに数
学、物理学、社会科学の専門知識
を応用することとなっています。
残念ながら日本は、前例主義や経
験主義がはびこっているため、IE
の概念が欠如し、前進していない
のが現状です。しかし、もし本当
にトップレベルを目指すなら、い
ち早く昔の慣習から脱却し、新し
い創造性を追求すべきです。日本
でも最近、物流センターが巨大化
しており、その規模と内容に合っ
たシステムの構築が不可欠となっ
ています。そのためにも、「創造的
なデザイン」は必要で、そこから「改
良」と「問題点解決」への道が開
けるのです。
最先端のテクノロジーというの
は、先ほどから申し上げているよ
うに、前例主義や経験主義から脱
却し、「智の創造」を目指すことを
言います。これがワールドクラス
のテクノロジーの創造につながる
わけですが、それは決して難しい
ものではありません。目の前にあ
る技術を、正しい組み合わせでど
う使うのかという、基本的な事柄
を実践するだけなのです。
私の知人で、アメリカ人の大学
教授がいます。彼は「物流業務の
70%は失敗している」と言ってい
ました。その理由を尋ねてみると、
@多くの企業が参加するものの、
それぞれの行動が1つの思想に基
づいていない、A集まった人たち
は、ある特定の部門でしか働いた
ことがない=経験内でしか判断で
きない(経験主義の蔓延)、B専門
的教育を受けたことがない、など
に起因するというのです。
そこで、健全なロジスティック
スを考える場合に、まずは次の
3 つを自問自答してください。
Logistics Engineering の4 原則
(@ Productivity、A Accuracy、
B Response Time、C Value
Added Service) に従って、@
「Seamlessly」ですか?(= 生産
性を上げるのに、合間を空けずに
連続化した作業となっています
か?)、A「Real Time」ですか?(=
バッチ【作業の固まり】処理ばか
りしていませんか?)、B「Without
Paper」ですか?(= 紙を使わずに
業務を遂行していますか?)。
皆さんの現場で、もしこれらす
べてを実現していれば(Yes であ
れば)問題ありません。しかし、
1つでも当てはまらないものがあ
れば要注意。改善の余地ありとい
うことですから、気を付けてくだ
さいね。
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