サブプライム問題に端を発する金融市場の混
乱、原油高・穀物高を主因とする物価の上昇など、
米国経済を取り巻く情勢は厳しい状況が続いてい
る。今回は、三菱東京UFJ 銀行とユニオンバンク・
オブ・カリフォルニアからエコノミストを迎え、
米国全体とカリフォルニア州の経済について現状
と展望を解説してもらった。セミナー内容の一部
を紹介する。

「金融市場全体を揺るがす大混乱からは、落ち着きを見せています」と勝藤さん
まず三菱東京UFJ 銀行経済調査
室のシニア・バイスプレジデント・
チーフエコノミストの勝藤史郎さ
んから、米国経済と金融の動向の
解説があった。
* * *
アメリカの住宅ローン残高は過
去10 年で2倍以上と、異常な伸び
率となっています。なかでもサブ
プライムローン件数の比率は2003
年末に急増、それまでの2〜3%
から10% 以上に跳ね上がっていま
す。ですが、金額にすると全体の
10 〜15%で、当初はさほど大きな
影響はないと思われていました。
住宅販売価格は05 年あたりから
下落しています。一般に住宅価格
は在庫期間に反比例するもので、
過去の在庫期間は平均約6カ月で
した。現在これが10 カ月を越え、
価格も下落しています。在庫が増
えた理由は住宅着工件数がピーク
時で年間200 万戸と、供給超過に
なってしまったため。サブプライ
ムの延滞や在庫増加に伴い、現在
着工件数は激減しています。着工
が減らなければ在庫が減らず、住
宅価格は下げ止まりません。
07 年8月、欧州大手銀行の巨額
な損失に端を発し、金融市場の混
乱が始まりましたが、その背景に
はサブプライムローンを証券化し
た商品の暴落がありました。サブ
プライムローンは本来信用度が低
く、高リスク高リターンなのです
が、それを証券化したものはなぜ
か高く格付けされ、世界中の投資
家が買っていきました。そこに延
滞率の上昇などの懸念が広がり、
債権は暴落、株価も暴落し、金融
市場は混乱に陥ったのです。
この対策として連邦政府、中央
銀行は、まず公定歩合を3.25%下
げ2%に。また、流動性供給とし
てFF 金利の誘導目標も大幅に引
き下げました。現在、サブプライ
ム商品の格付けが見直されていま
す。金融機関のサブプライム損失
は、世界の主要金融機関で評価損
失計上金額が2800 億ドル。今後も
引き続き、総額が1兆ドルにまで
上るという予測も出ていますが、
金融機関の4半期決算が終わるご
とに評価損は少しずつ減っていま
す。
現在、アメリカの大手金融機関
の自己資本調達は十分にカバーで
きており、金融市場全体を揺がす
ような大混乱は、いったん落ち着
いています。
金融市場以外の経済の動向を見
ると、今年の初めから景気後退が
始まっています。サブプライム問
題を受けて、まず金融機関が貸し
出しの審査基準を非常に厳しくし
ました。住宅ローンだけでなく、
消費者ローン、商工業ローン、ク
レジットカードの信用条件も厳し
くなっています。アメリカは国内
総生産の約7割が個人の消費です
ので、借り入れが難しくなり経済
に影響を及ぼしているのです。
株価の変化をS&P500 で業種
別に見ると、昨年から住宅・金融
関連が大きく下落、今年は生活必
需品や情報技術の業種も下落して
います。逆に、エネルギーや素材
は上昇し続けています。景気の悪
化は広がっていますが、サブプラ
イムから遠い業種は傷が浅く、雇
用についても建築・金融・小売業
は減少しているものの、サービス
部門には大きな減少は見られませ
ん。
また、アメリカではインフレ問
題も経済を圧迫しています。賃金
の伸び率が下がっているのに対
し、ガソリンや食糧の値上げなど
の影響で消費者物価の伸び率が非
常に上がっています。また、原油
先物価格は現在1バレル130 ドル
を超過しています。今後、投機的
な部分は調整され、100 ドルくらい
には下がると予測していますが、
原油高は続くと思われます。
農産物の方は、小麦は現在価格
高騰が収まっており、トウモロコ
シも横ばい。投機的な介入はあま
り見られません。家計を圧迫して
いるのがガソリン。これが値上が
りすると消費者の購買意欲も低下
します。以前は株価に連動してい
ましたが、ここ5年はガソリン価
格と逆相関を見せています。
今年の頭からリセッションに入
っていますが、年後半には持ち直
し、年末には脱却すると予測して
います。今後、住宅着工件数を今
年の初めのペースから20%減らせ
ば、遅くとも09 年半ばには在庫調
整が終わるでしょう。また、原油
価格の行き過ぎも年末までには調
整が入ると思われます。現在行わ
れている戻し減税の4割くらいが
消費に回ると推測すると、年の後
半にはマイナス成長は避けられる
と思われます。
アメリカ経済の成長回復のカギ
となるのは、原油価格が100 ドル
レベルにとどまり、物価上昇率が
3% 台に減速、実質所得の伸びが
好転すること、政府の景気刺激策
が相応の効果を上げることなどが
挙げられます。
続いて、ユニオンバンク・オブ・
カリフォルニア経済調査部のシニ
アエコノミスト、松田慶太郎さん
から、カリフォルニア州経済の現
状について解説があった。
* * *
カリフォルニア州(以下、加州)、
特に南カリフォルニアの経済にサ
ブプライム問題が非常に大きく影
響しています。加州の州内総生産
は全米国内総生産(GDP)の13%
を占めており、米国内の経済活動
の約8分の1がこの州で起こって
いる勘定になります。全米と州内
の総生産の成長率を比較すると、
03 年から06 年まで加州は全米を
上回るペースで成長を続けてきま
したが、07 年には全米2.2% に対し
加州は1.5%。全米ランクは34 位に
下がってしまいました。07 年の経
済の失速は失業率にも影響してお
り、全米5.5%(07 年5月現在)に
比べ、加州はすでに6.2%(同4月
現在)。06 年の半ばから急上昇し、
全米との差も開いています。
07 年の非農業部門の雇用増加率
も全米平均に比べて加州平均の落
ち込みは大きくなっています。そ
の中には地域差があり、ハイテク
産業の回復したサンフランシスコ
は健闘しているものの、ロサンゼ
ルス、サンディエゴが非常に悪く、
中央盆地地帯も急激に減速してい
ます。
産業別の就業者数変化を見る
と、建設、金融、製造、小売業で
減少しており、建設セクターから
1年間で約8万人の雇用が減少し
ました。逆に住宅関連から離れた
教育・医療や政府関連、テクノロ
ジーなどのビジネスサービスは伸
びています。建設の中でも、商業
不動産などの非住宅は変化が少な
く、雇用が減っているのは住宅建
設に従事する労働者です。
連邦住宅公社監督局の調査によ
ると、住宅価格の前年比は全米で
横ばい(0%)ですが、加州では
10.6%下落しています。これは政府
系の金融会社のデータのみに基づ
いています。州別の住宅価格変化
率を基に順位を付けると、過去1
年間の下落率が最大のカリフォル
ニア州は最下位でした。ちなみに、
ロサンゼルス郡は8.3% 減、内陸部
は13.8% 減、オレンジ郡は11.2%
減となっています。
州ごとに、そして加州内各地域
ごとに状況の差が非常に大きいと
いうのが今回の住宅市場の大きな
特徴です。また、州住宅仲介業界
者協会の調査では、州内の住宅価
格は昨年比32%も減少していると
いう結果が出ていますが、取り扱
い件数は2.5% 上昇しており、正常
な状況に戻りつつあります。

「地域による経済状況の違いは、住宅市場に色付けされています」と松田さん
サブプライムの州内での影響で
すが、ローンの残高の推移を見る
と、サブプライム型は全体の15%
となっています。これは持ち家奨
励策としての政府系ローンが減少
し、そのシェアが民間のサブプラ
イムに移行してきたもので、通常
型の残高のシェアはずっと8割と
変わりません。ローンの延滞率は
通常型が高く見積もっても3.5%か
ら4% ぐらいを持続しているのに
比べ、州内のサブプライム型はど
んどん上昇し、15%にまで達して
います。差し押さえ物件はリバー
サイド、サンバナディーノなどの
内陸部に集中。またサンディエゴ
にも増えていますが、これも細か
い地域によって差があり、第1次
取得者や最近の移民の住む場所に
集中しています。
南加の経済状況も住宅市場の動
向に関連しており、地域別の雇用
増加率を見ると、ベンチュラ郡や
内陸部は住宅ブーム終焉による失
速が大きく影響しています。ロサ
ンゼルス郡の雇用は比較的安定し
ていますが、州の動向と同様、住
宅関連が減少しています。住宅ロ
ーンに特化した金融サービスが集
まっていたオレンジ郡では、建設
に加え同産業の雇用の減少から「金
融リセッション」とも言うべき状
況が起こっています。
住宅はその地域に限られたビジ
ネスで、「この街、この通り」と
いった細かいレベルで市況が異な
ることがあります。また、需要と
供給のバランスがいったん崩れる
と、移動できない「商品」ですので、
各地域内で需給が再均衡するまで
時間がかかります。現在は住宅の
状況が地域によってまちまちなの
で、住宅市況が回復しないところ
は景気も回復しません。州全体が
景気後退と言うより、“スポットリ
セッション”といった現象です。
州経済の回復の時期は予測が難
しく、サンフランシスコのように
経済状況のいいところは住宅価格
も比較的早く値上がりに転じます
が、逆に住宅の在庫がたまってい
る内陸の新興住宅地などは10 年ま
でかかるかもしれません。