去る3月21日、ホリデーイン・トーランスで「採用から解雇まで」についてのセミナーが開催された。
Ernst & Young LLPから、米国公認会計士でありニューヨーク州弁護士でもある望月良子さんが壇上に上
がり、米国総報酬制度の基本的考え方や概要、雇用のプロセスなど、採用から解雇までの留意点を講演し
た。望月さんならではのわかりやすい解説に、会場に集まった参加者たちは熱心に聞き入っていた。

「ベネフットの見直しは常に必要です」と語る、望月さん
日系企業には従業員を守る文化
があります。だから、日系企業の
従業員は、長期間勤続してくれま
す。人が辞めた時、ラーニングカ
ーブ、ヘッドハンティングなど色々
なことを考えると、会社には大体
給与の1.5 倍くらいのコストがかか
ります。従って長期勤続は、基本
的にはとてもいいことです。
日系企業の中には、ベネフィッ
トを厚くすることで会社で必要と
する人材を惹きつけようとする会
社もあります。実際、人事戦略と
して、ベネフィットを厚くするの
であれば、「他社と比べて、ベネフ
ィットがどれだけ厚いのか」をき
ちんと把握し、人を雇う時、また
は辞めようとする人を惹き付けよ
うとする時、「うちのベネフィット
は他社と比べてこれだけ良い」、そ
ういう話ができるかどうかが重要
です。そうでなければ、コストだ
けがかかって、ベネフィットを厚
くした意味がなくなってします。
ベネフィットの必要性は、年齢
や性別などで大きく変わります。
年齢が高くなれば、退職した際の
ベネフィットがとても大事になり
ます。よって、ペンションがある
会社は、高年齢層の従業員には非
常に魅力的です。従業員数が100
人くらいの会社でも、ペンション
を持っている会社があります。ペ
ンションとは、日本の厚生年金の
ようなもので、会社が投資リスク
を負いますから、株価が落ちたら
大変です。ですから、多くの日系
企業はペンションを止めようとし
ています。
401(k) プランがポピュラーにな
る前の70 年代に進出してきた会社
は、何らかの形でペンションを持
っています。ですが、周りの会社
が401(k) を採用し出すと、「うちも
401(k) を入れるべきだ」という従業
員からの声の高まりから、401(k) を
採用しました。よってペンション
と401(k) が一緒に存在することに
なった。米国企業ではペンション
を辞めて401(k) プランを導入した
のに、日系企業では総合的なアプ
ローチがされずにベネフィットを
厚くするだけとなってしまった。
しかし実は、従業員数が200 名以
下の会社の場合、ペンションを持
てるだけの財力や資産運営能力は
なく、その資産運用がなかなかで
きないのが現状です。
また日系企業の中には、生産拠
点を米国からほかに移し、今やア
ドミセールスのみでそれほどの人
数を抱えていない会社でも、まだ
ペンションをやっているところが
あります。そのような会社の場合、
ペンションの投資リスクは、辞め
た人の分を抱えていることになり
ます。ですから、その時々で見直
しが必要です。
見直しをする時は、「周りは何を
やっているのか」というベンチマ
ークが必要ですが、もう1つ重要
なのは、「包括的に見ること」。す
べてを見ながら、どこを変えてい
くかという見方をしないと、中途
半端に終わってしまいます。
それから、会社の歴史や会社の
ライフサイクル。米国に70 年代か
ら80 年代に進出した会社は、その
時に雇った人が、今、55 歳から60
歳近くになっています。例えば今
の社員平均年齢が48 歳の会社も、
あと10 年もすればみんな退職にな
ります。10 年経ってからだと遅い
ですから、今のうちに何かをしな
ければならない。
会社を買収する時に、人事精査
の一環としてどんな年齢層の従業
員がいて、どのような人口配分な
のかなどの、従業員人口のポート
フォリオを調べます。核となる1
番重要な年齢層が薄く、シニアの
層が厚くなっている人口分布は好
ましくありません。シニア層があ
まりにも大きいと、医療保険も高
くなります。皆さんが会社を運営
し、幹部を見る中で、そのリスク
をしっかりと把握し、「歴史の中の
リスク」「文化の中のリスク」など
を考えながら、内部の公平性を保
ちつつ、戦略的に惹き付けたい人
が魅力的と思えるような全般的な
パッケージを作っていかなければ
ならないのです。
ビジネス戦略から、どんな人が
必要なのか。今後どのポジション
を強化し、どれくらいのスピード
で新陳代謝を進めるべきか。それ
を総合的に考える時、どういうパ
ッケージが魅力的か、彼らを惹き
付けるのは何かなどを考えるプロ
セスが必要になります。
米国の総報酬制度の概要として
は、報酬、福利厚生、ワークライ
フと呼ばれる仕事と生活のバラン
ス、ボーナスや表彰などの評価を
与える業績認知、それから教育や
トレーニング(ディベロップメン
ト&キャリア・オポチュニティー)
などの要素に分かれています。こ
れまではどの会社も報酬、福利厚
生の部分にフォーカスしていまし
たが、今、米国では、その次のレ
ベルが問われています。ワークラ
イフであったり、業績認知であっ
たり、ソフトの部分が重要だとさ
れているのです。
報酬には、基本給、短期インセ
ンティブ(ボーナス)、長期インセ
ンティブなどがあります。長期イ
ンセンティブとは、3年などの中
長期計画に合わせて、ゴールを達
成したら報酬を与えるというもの
です。ですから、2年目までは順
調でも、3年目に達成(実現)で
きなかったらもらえません。ちな
みに長期インセンティブは、通常
会社の業績結果を左右するトップ
の人たちに提供されます。
福利厚生制度に関しては、アメ
リカはとても複雑です。アメリ
カのベネフィットプランというの
は、強制的に提供しなければなら
ない部分が少なく、会社によって
医療保険もないということもあり
ます。会社任意のものなので、法
律上、提供しなくてもいいのです。
しかし、ベネフィットプランの
難しい点は、すべてが既得権とな
ってしまうことです。しかももら
ったものは給与と違って、数字と
して出てこないから忘れてしまい
ます。しかし、会社が変更すると
言った時点で従業員から「何で変
えるのだ。それは私のものじゃな
いか」と不平不満が出ます。そう
いうコミュニケーション問題も噴
出します。だからこそ、ベネフィ
ットプランを考える時は、それを
変更しなければならない場合のこ
とも考えて、慎重にすべきです。
対象となる従業員は基本的に全社
員で、その数も莫大ですから。
日米の報酬福利厚生制度の違い
についてですが、時には、昇給は
比較的定期的ですが、米国では、
職責に対して給与を払うので、そ
の職責であれば最低これくらいか
ら最高これくらいまで払うという
“給与レンジ”というコンセプト
を使い、レンジの最高額まで行く
と昇給率はゼロとなります。ただ、
景気の悪化や業績不振などに陥る
と、社員全員賃金カットで、みん
なで難局を乗り越えようというコ
ンセプトがあります。
アメリカではそういった、みん
なで痛みを分かち合うというコン
セプトはありません。アメリカで
は、「余剰人員の整理」が主流のコ
ンセプトです。役目に対して必要
な人員数を考え、余剰がある場合
は辞めてもらうというものです。
アメリカでは、賃金カットは通常
されません。
しかし、もし賃金カットがされ
るとなれば、1番初めに声を上げ
るのは優秀な人材です。同時にヘ
ッドハンターが彼らに電話をかけ
始めます。優秀な人材は常に狙わ
れていますから。その時会社は何
か策を練る必要があります。そう
しないと優秀な人材は、他社に行
ってしまいます。彼らがいなくな
れば、会社の運営は成り立ちませ
ん。
日本の場合、ボーナスは固定部
分が多いですが、アメリカでは変
動型です。個人の貢献・業績や会
社の業績にリンクしています。し
かし会社任意の部分もあります。
例えば、同業他社は黒字なのに、
うちは経営判断のミスやインベン
トリーの問題もあって赤字。だか
ら今回のボーナスはなしと判断す
ることも可能です。
しかし、そんな時、先ほどのヘ
ッドハンターが動きます。従業員
は「自分のせいではないのにボー
ナスがもらえないんなら、他の会
社に行く」と決心する場合もある。
ですから、経営者側の中には任意
でボーナスを支払うケースもあり
ます。そうしないと優秀な従業員
が取られてしまうからです。
日本の場合は稀ですが、アメリ
カでは3社に1社の割合で、何ら
かの形で長期奨励給を払っていま
す。これは株ベースのものが多い
のですが、株価が下がった時に意
味がなくなるので、現金と株の両
方で支給している会社が増えてい
ます。
福利厚生は、日本はどの会社も
似ていますが、アメリカの場合は
多種多様です。医療保険も1つの
会社で5種類ほど提供していると
ころもありますし、コストの変動
によって毎年ベネフィットの見直
しを行い、変更もしています。
勤務年数は、日本の場合長期が
大多数。アメリカの場合短期勤務
が大多数です。かなり流動的です。
長期勤務というコンセプトではな
く、自分に合ったところに動くと
いうことです。
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