第120 回ビジネスセミナー
「日米両国の通商政策アップデート:
自由貿易協定と日米経済関係」開催
去る7月16日、ホリデーイン・トーランスで、第120回JBAセミナーを開催した。当日は、伊原純一在
ロサンゼルス日本国総領事とCrowell & Moring法律事務所のブライアン・ペック弁護士を講演者に迎
え、日米のFTA(自由貿易協定)、東アジア共同体における日米の役割、今後の日米経済関係などがわか
りやすく解説された。
まず伊原純一在ロサンゼルス日
本国総領事が、世界レベルでの通
商政策について解説があった。
本来通商は「する」「しない」の
議論ではなく、「平等」が大きなテ
ーマなのです。A、B 両国が通商
協定を結んだ時に、その条件を他
国にも適用するのかどうか。
戦前の貿易差別や地域化などの
反省から、戦後GATT(関税およ
び貿易に関する一般協定)ができ
ました。1986 年から94 年のウル
グアイ・ラウンドで、WTO(世界
貿易機関)に変わりましたが、そ
の基本姿勢は、ある国に与えてい
る優遇措置をどの国にも与え合う
MFN(最恵国待遇)体制です。
しかし一方で、ベルギー、ルク
センブルグ、オランダが関税を撤
廃し、1つの貿易単位になった「ベ
ネルクス関税同盟」(EU[欧州連
合]の起源)などの地域貿易協定
があります。このような協定は70
年代に20 だったのが、90 年には
46、今や205。GATT やWTO の
理想とはかけ離れていますが、今
では、グローバルな自由貿易も良
いが地域ごとの自由化も良いとい
う考え方になっています。
日本はこの動きに消極的でした
が、地域貿易協定が増える現実を
前に、90 年代半ばから政策を転換。
EPA(経済連携協定)やFTA(自
由貿易協定)を各国と結ぶように
なりました。
日本は、「東アジア共同体」実現
構想の下、東アジアとのFTA が
中心でした。アジア・太平洋地域
で圧倒的経済力を持つ米国抜きで
FTA やEPA を進めていました。
日米の貿易関係を見ると、米国
の対日輸出品目は電気機器や一般
機械、化学製品などが多く、日本
はそれらにほとんど関税をかけて
いません。農産品についても貿易
額の多い品目であるタバコや大豆
には関税はかかっていませんし、
トウモロコシにもほとんどかかっ
ていません。米や小麦など高関税
の物もありますが、それらは日米
貿易全体では少額です。
また日本の対米輸出でも、米国
は車、特にピックアップトラック
などの商用車に25%という高関税
をかけているものの、やはり全体
的な関税率は相当低くなっていま
す。ですから日米経済には、関税
撤廃という伝統的なFTA の意義は
それほど大きくないと言えます。
東アジア協力体制の中核は
ASEAN ですが、最近は日中韓を
含めた「ASEAN+3」が活発です。
その外側にインド、オーストラ
リア、ニュージーランドを入れた
EAS(East Asian Summit)があり、
地域経済協力活動を長年行ってい
るAPEC が、「ASEAN+3」と米国、
カナダ、メキシコ、チリ、ペルー、
台湾、香港を包括した巨大集団と
なっています。
そこで、APEC を中心にした地域
的自由貿易を促進できないかという
議論が出てきます。WTO は、最近
ある意味「国連化」してきています。
世界経済のグローバル化が進み、自
由や規制緩和、新しい貿易のルール
が必要となっているにも関わらず、
各加盟国の意見調整が困難である側
面があり、WTO が自由化の動きに
対応し切れていないのです。だとす
れば、自由化は当面WTO に頼ら
ず、APEC の中の先進的な経済国が
集まって自由化を進めることがあり
得えます。
個人的意見としては、今まで日
本がやって来たFTA やEPA は、
本当の意味で日本の構造改革に役
立っていないと思います。それは
FTA 相手国の経済規模が十分に
大きくないからです。ですから、
当初の基本方針のようにFTA や
EPA が日本の構造改革という目的
を持つのならば、本気でアメリカ
も含めた大国と議論を開始するべ
きと考えます。
続いてブライアン・ペック弁護
士から、米国の現状と日米関係に
ついての解説が行われた。
米国は通商政策について、継続
してアジアに関与していきたいと
思っています。また、高まる中国
の影響力を弱めたいとも思ってお
り、そのためにも現在進めている
米韓FTA を必ず批准することが重
要となっています。
米韓FTA に対し、民主党議員を
含めた米議員の大部分が静観してい
るものの、支持を表明しています
ので、同時進行中の米コロンビア
FTA が本格化する前に、米韓FTA
に移行することがあり得ます。
米韓FTA とは、自動車分野、政
治の透明性、金融、電気通信、サー
ビス分野など、広範囲の内容をカバ
ーしたものです。米国際経済研究所
によりますと、米韓FTA が実行さ
れた場合、日本企業は米韓の2大市
場で、貿易と投資の転換を余儀なく
されます。米国向け日本製品の輸出
低下が起こり、日韓が直接競争にあ
る分野では少なくとも、米韓の関税
撤廃や削減によって、米国市場での
競争は日本が不利になることが予想
されます。また、機械、化学薬品、
ハイテクセクター、農産物など、韓
国向け日本製品の輸出の低下も予想
されます。
しかし、米国FTA の利点は、米
韓両国間だけにとどまりません。
このFTA により、カリフォルニ
アや他州にベースを置く日本企業
も、さらに韓国市場への自由なマ
ーケットアクセスが可能となり、
米国生産における原産地規制を満
たすものであれば、工業製品への
大幅な関税削減や撤廃も見込まれ
ます。同時にサービス市場へのア
クセス、政府調達、税関手続きの
透明性や効率性、強化した知的財
産保護、ビジネス・貿易面での規
制の透明性なども期待できます。

「米韓FTA は日米経済にも大きく影響します」と語るブライアン・ペック弁護士
マケイン氏、オバマ氏のどちら
が政権に就いても、「日米経済関係
の活性化」というコンセンサスは
経済通商界に存在します。そして、
民主・共和両党の連邦議会メンバ
ー、米国の実業界の政策立案者ら
すべてが、ブッシュ政権発足時に
確立された日米経済パートナーシ
ップに代わる新しいイニシアチブ
を必要と考え、日米の新しいレベ
ルでのパートナーシップを結ぶ必
要性があるとしています。
また、在日米国諸国会議所や経済
協議会など、両国の民間セクターの
強力なサポートが上がっております
し、日本の経済審問会議が正式に日
米自由貿易協定の話し合いを開始す
べきだと表明しました。ですから、
日米自由貿易協定への環境は整いつ
つあると言えます。
もちろん、課題も残っています。
それは新貿易促進権限なしでの実
現は難しいということや、牛肉問
題、ドーハラウンドや他のFTA へ
の影響などです。ですから、今後
包括的な日米FTA の可能性を見出
していく中で、それぞれを詳しく
調べていく必要があると共に、農
業分野などのデリケートな部分も
含め、単なるFTA としてではな
く、新たなボルトスタンダードを
模索する必要があると思います。
交渉を開始する際の重要ポイン
トは、まずは大統領、首相、連邦
会議、国会などの政治リーダー、
および民間セクターからの政治的
意志とサポートを得る必要性があ
ります。また、農業を含めた全分
野でのFTA に対する意欲も必要に
なります。また米韓FTA を前例と
して、デリケートな部分にも対応
していくことが重要になります。
こうした課題に対応できれば、日
米FTA は次期政権での締結が「も
し」ではなく、「いつ」で対応され
ると考えられます。
ブライアン弁護士の「米韓
FTA」の説明に関し、JBA 会員企
業も米国の通商政策や日米FTA の
インプリケーションについて議論
することが重要。また伊原総領事
からの「日米FTA への日本経団連
の要望」に関し、日米FTA の交渉
開始への議論を続ける一方で、貿
易手続きや規制面、物流面の課題
などは、既存のハイレベルの2国
間の枠組で議論されています。総
領事館から間もなく日米規制改革
対話関連の意見募集があるはずで
すので、JBA 会員企業もこうした
機会を活用して、意見を積極的に
述べていくことができると思いま
す。
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